カシコン銀行経済レポート

【連載】カシコン銀行によるタイ経済・月間レポート 2015年10月号

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タイ経済・月間レポート(2015年10月号)

2015年8月のタイ経済情報

タイ中央銀行が発表した2015年8月の重要な経済指標によると、タイ経済は依然として低調であることが示されました。特に、輸出と工業生産の前年同月と比べた成長率は7月の成長率より下回りました。半耐久財への支出および資本財の収入だけの民間消費指数に改善が見られたため、国内支出の回復ペースは依然として緩やかにとどまる見通しです。観光業と公共支出は引続き改善していたにもかかわらず、タイ経済は、世界景気回復が遅いペースで進行していること、国内の干ばつ問題や、信頼感と購買力の弱さなどのマイナス要因に引続き直面しています。

タイの輸出が経済成長全体に下押し圧力

  • 2015年8月のタイの景気は、依然として脆弱状態となっています。世界景気後退、特に中国とアセアン諸国の経済が依然として低迷していたため、タイの輸出は引続き減少しました。また、信頼感と購買力の弱さなどのマイナス要因で、民間消費と民間投資の明らかな回復は未だ見られませんでした。しかしながら、観光業と政府支出は引続き改善していました。
  • カシコンリサーチセンターでは、重要な経済指標の回復兆しの遅れおよび世界景気回復の不確実性により、第4四半期のタイ経済回復に下押し圧力がかかると予想します。しかしながら、今後の景気刺激策および公共投資計画の実施により、タイ経済は徐々に改善する見込みです。
  • タイ政府は、国家競争力を強化するため、国境県での特別経済区(Special Economic Zone: SEZ)に加え、内陸でのクラスター形態のSEZの開発政策を打ち出しました。クラスター形態のSEZは、タイの主要産業の競争力を強化し、生産性向上や輸出の競争力強化につなげる狙いです。とりわけ、研究開発事業、高度技術を使用する技術集約的産業の集積を目指しています。
  • タイの重要な産業の中で、高度技術を必要とし、将来性も高い事業は「スーパークラスター」に位置づけられます。一方で、タイの競争力を強化する必要がある産業が「その他クラスター」に指定されます。この他にも、クラスター開発に欠かせないナレッジ・ベースの事業や、ロジスティック事業などが「クラスター支援事業」と呼ばれます。

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8月の民間消費は、前年同月比で1.4%下落し、7月の同1.8%減から小幅に改善しました。特に自動車や自動二輪車などの耐久財の総支出が9.5%と大きく落ち込みました。世帯の所得低下、信頼感指数の落ち込みや、金融機関が自動車ローンの融資を厳格化していることなどが影響しました。しかしながら、非耐久財では、運輸・通信分野で燃料、サービスへの支出が拡大しました。
一方、民間投資は、前年同月比で2.7%増、7月の同0.9%増を上回りました。新車販売台数は依然として減少したものの、機械・設備投資が改善しました。また、通信や発電設備などの資本財の輸入も拡大しました。建設投資は、住宅の需要回復を待っている段階ですが、堅調に推移しました。
8月の輸出は、前年同月比5.6%減の175億8700万米ドルとなり、過去8ヵ月連続で減少しました。その主な理由は、中国やASEANなど主要輸出先の景気減速、世界原油価格の値下がりや、中国が国内生産された化学製品の使用量を以前より増やしていることなどにより、石油と化学製品の輸出が大幅に落ち込んだためです。工業製品では、消費者のハイテク機器志向(タブレットや、スマートフォンなど)によるハードディスク駆動装置(HDD)の需要が引続き減少しました。また、世界的な需要が減少したことおよび供給不足により、コメ、キャッサバなどの農産物の輸出も伸び悩みました。しかしながら、欧州や米国、オーストラリア向けの自動車・部品、携帯電話やタブレット端末向け電子部品などは改善しました。
商務省が発表した2015年9月の貿易統計によると、タイの輸出額(約188億1600万米ドル)は前年同月と比べ、8月の6.7%減から5.5%減になり、マイナス幅は前月から縮小しました。主要市場の中国、欧州、日本の経済が減速していることに加え、原油価格と農産物価格の下落も全体を押し下げました。
品目別に見ると、主要工業製品は前年同月比1.9%減の151億4300万米ドルでした。車両・部品が同20.6%増だった半面、二輪車・部品は同16.0%減となりました。一方で、農産物・加工品は同9.9%減の26億5100万米ドルでした。砂糖が同13.1%増と二桁増だったほかは、コメとキャッサバがそれぞれ28.8%減、28.6%減となるなど軒並み不振でした。
工業生産に関しては、7月の前年同月比6.3%減から同8.3%減となり、6ヵ月連続でマイナス成長となりました。総工業生産指数が縮小したにもかかわらず、一部の工業生産は改善しました。特に、自動車とアルコール飲料の生産は、新商品の発売に伴い拡大しました。一方、総工業生産が減少した主な理由は、ハードディスク駆動装置(HDD)、電子製品、鉄鋼やセメントなどの生産が下落したためです。

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8月にタイを訪れた外国人観光客は、前年同月比24.7%増の260万171人で、前月から伸びは鈍化したものの、高い成長率を維持しました。中国をはじめとする東アジアからの旅行者が伸びをけん引しました。尚、8月中旬にバンコクで発生した爆弾テロ事件は、観光業に短期的なマイナス影響を与えると見込まれます。しかし、観光シーズンである第4四半期の前には改善する見通しです。
2015年下半期の見通しに関して、7〜8月の重要な経済指標の成長の弱さ、特に予想以上に縮小した輸出、および9月の世界景気回復兆しが依然として明らかではなかったことにより、カシコンリサーチセンターでは、第3四半期の経済成長率が前年同期比2.8%増加し、7月に予想された同3.0%増を下回ると予想します。その結果、2015年下半期の成長率は上半期の前年同期比2.9%増を下回る可能性があります。しかしな
がら、第3四半期末から様々な景気刺激策および公共投資計画が実施されたため、第4四半期の前四半期と比べる経済成長率は改善すると予想します。
商務省が発表した9月のヘッドライン・インフレ率は、8月の前年同月比1.19%減から同1.07%減となり、9ヵ月連続で減少しました。その主な理由は、国内小売燃料価格、公共交通運賃、LPガスの価格および電気料金が低下したためです。品目別にみると、食品・飲料は前年同月比1.31%上昇しました。肉・魚と卵・乳製品を除く全ての項目が上昇しており、特に果物・野菜は5.95%と高騰しました。
非食品は2.36%下落しました。
原油価格の低下を受け、石油が23.58%と大幅に落ち込みました。
また、振れ幅の大きい生鮮食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は、前年同月比0.96%上昇しました。
バーツ相場の変動については、タイバーツは、2015年10月20日には1米ドル=35.42バーツの終値をつけ、9月11日の1米ドル=36.05バーツから大幅な上昇傾向を見せました。その原因は、世界景気後退の懸念があったため、FOMCメンバーの多くが来年早々の利上げに同意する可能性があることです。一方で、バーツ対円の変動について、10月20日には100円=29.57バーツの終値をつけ、9月11日の100円=29.88から小幅な上昇傾向を見せました。

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