カシコン銀行経済レポート

【連載】カシコン銀行によるタイ経済・月間レポート 2015年9月号

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タイ経済・月間レポート(2015年9月号)

2015年7月のタイ経済情報

タイ中央銀行が発表した2015年7月の重要な経済指標によると、タイ経済は引き続き脆弱な状態となっています。前月までと同様に観光業と公共支出のみが経済をけん引しています。一方で、国内外の需要は引き続き低迷しています。
個人所得の伸び悩みと消費者信頼感の下落を受けて、生産や民間投資が低水準にとどまっています。

タイ景気は依然として脆弱

  • 2015年7月のタイの景気は、依然として脆弱状態となっています。経済のけん引役は観光と公共投資でした。中国と東南アジア諸国連合における需要の低迷により、多くの輸出品目が収縮しました。また、個人所得の伸び悩みと消費者信頼感の下落を受けて、生産や民間投資が低水準にとどまっています。
  • 観光業に関しては、高い成長率を維持し、欧州、中国を除くアジアからの観光客が増加しました。尚、8月中旬に発生した爆弾テロ事件は、観光業に短期的なマイナス影響を与えると見込まれます。しかし、観光シーズンである第4四半期の前には改善する見通しです。
  • 一方で、民間投資はほぼ横ばいとなりました。不動産分野の減速で建設投資が減少した一方、商用車の新モデルを中心に機械・設備投資は伸びました。しかしながら、機械・設備投資全体では依然として活発な動きは見られません。
  • メーソート特別経済区(SEZ)は、地理的な優位性と投資家に恩恵をもたらす税制面の特典から高い潜在力を持つSEZです。SEZ内での事業運営において恩恵を享受できる業種は、従来型の業種である農産物加工や繊維工業などであり、ほかに物流業、不動産業などもあります。それに加え、潜在力を持つ事業には消費財の製造業なども含まれます。従って、メーソートSEZはミャンマーへの投資を志向する企業にとって、興味深い選択肢となっています。

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7月の民間消費は前年同月比で22.1%下落しました。耐久財、半耐久財、運輸分野のサービス支出が減少しました。また、非耐久財の消費も前月から伸びが鈍化しました。家計が支出に慎重になっていることを反映したもので、収量の減少と価格の下落から農業所得が大幅に減少したことが響いています。それに加え、非農業分野の家計の所得は横ばいを続けています。
一方、民間投資は前月比で0.1%減、前年同月比では0.5%増とほぼ横ばいとなりました。不動産分野の減速で建設投資が減少した一方、商用車の新モデルを中心に機械・設備投資は伸びました。しかしながら、機械・設備投資全体では依然として活発な動きは見られません。
7月の輸出は、前年同月比3.1%減の181億1300万米ドルとなり、引き続き収縮しました。中国とASEAN経済の減速により、多くの輸出品目が収縮しました。
また、石油価格の下落と需要軟化を受けた石油製品や化学品の値下がり、消費者のハイテク機器志向(タブレットや、スマートフォンなど)によるハードディスク駆動装置(HDD)の需要減が響きました。しかしながら、欧州や中東、オーストラリア向けの自動車、中東向け家電などは改善しました。
商務省が発表した2015年8月の貿易統計によると、タイの輸出額(約176億6900万米ドル)は前年同月と比べ、7月の3.6%減から6.7%減になり、収縮幅は前月に比べて拡大しました。主要市場の中国、欧州、日本、米国の経済が減速していることに加え、原油価格と農産物価格の下落、輸出先の自国通貨安への誘導が輸出減の背景にあります。
品目別に見ると、主要工業製品が前年同月比3.2%減と前年割れ、車両・部品のうち、自動車・部品が同7.2%増だった半面、二輪車・部品は同26.3%減となりました。他の主要工業製品では、コンピュータ・部品が同8.9%減、電子回路が同5.1%増となりました。一方で、農産物・加工品は同8.0%減となり、天然ゴムが同22.5%増、砂糖が同9.7%増となった以外は軒並み不振でした。
工業生産に関しては、6月の前年同月比7.7%減から同5.3%減となり、5ヵ月連続でマイナス成長となりました。しかしながら、前月比では2.6%上昇しました。その主な理由は、自動車の新モデル生産への切り替えの完了、ビールの新商品投入を前にした既存商品の増産、在庫投資のための化学品と電子部品の生産増という一時的な要因によるものとなっています。
7月にタイを訪れた外国人観光客は39.4%増の264万3000人で、前月から伸びは鈍化したものの、高い成長率を維持しました。欧州、中国を除くアジアからの観光客が増加しました。尚、8月中旬に発生した爆弾テロ事件は、観光業に短期的なマイナス影響を与えると見込まれます。しかし、観光シーズンである第4四半期の前には改善する見通しです。

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商務省が発表した8月のヘッドライン・インフレ率は、7月の前年同月比1.05%減から同1.19%減となり、8ヵ月連続で減少しました。品目別にみると、食品・飲料は前年同月比1.27%上昇しました。肉・魚と卵・乳製品を除く全ての項目が上昇しており、特に果物・野菜は8.51%と高騰しました。非食品は2.52%下落しました。
原油価格の低下を受け、石油が24.72%と大きく落ち込みました。それに伴い、項目別で全体の2割強を占める運輸・通信が7.58%下がりました。
また、振れ幅の大きい生鮮食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は、前年同月比0.89%上昇しました。
バーツ相場の変動については、タイバーツは、2015年9月11日には1米ドル=36.05バーツの終値をつけ、7月末の1米ドル=34.93から大幅な軟化傾向を見せました。その原因は、中国の株価下落へのショックと、米国の利上げ観測です。これらがタイバーツ軟化の影響を与えました。一方で、バーツ対円の変動について、9月11日には100円=29.88の終値をつけ、7月末の100円=28.18バーツから軟化傾向を見せました。その主な要因は、タイ経済は、依然として脆弱していることからです。

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