カシコン銀行経済レポート

【連載】カシコン銀行経済レポート 2016年8月号

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タイ経済・月間レポート(2016年8月号)

2016年6月のタイ経済情報

タイ中央銀行が発表した2016年6月の重要な経済指標によると、国内経済がやや鈍化しました。政府支出と観光業は引き続き拡大していますが、物品輸出は金地金を除けば、引き続き収縮しています。輸出停滞が製造業の生産や民間投資の勢いを削いでいます。

6月のタイ経済は僅かに減速基調

  • 2016年6月のタイ景気は僅かに鈍化しました。政府支出と観光業は引き続き拡大していますが、輸出停滞が製造業の生産や民間投資の勢いを削いでいます。
  • 7月の消費者物価の上昇率は、6月の前年同月比0.38%増から同0.10%増となりました。上昇ペースは鈍化しているものの、果物・野菜と卵・乳製品の価格が高騰し、全体を押し上げました。一方で、振れ幅の大きい生鮮食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は、前年同月比0.76%の上昇で、前月から伸びが横ばいとなりました。
  • タイ政府が指定した第1期の経済特区のうちサケーオ県は、工業団地造成が進められる最初のケースとして注目されています。同県は、カンボジアとの国境貿易が最大規模であり、対カンボジア国境貿易高の60%を占めています。
  • また、タイ政府は、同県とバンコク首都圏やレムチャバン港などとを結ぶ陸路交通網の整備も計画しており、今後国境を通じた物品の動きがバンコク首都圏やその他海外市場とも連結していく可能性が高まっています。ここに経済特区と工業団地を造成することは的を得た選択であり、投資の誘致を通じて国境貿易をさらに活性化させていくことが可能になります。

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6月の民間消費は前年同月比3.6%の上昇で、前月の同5.3%から伸びが減速しました。自動車などの耐久財の消費が収縮しました。前月に販促活動や新モデルの投入で販売が加速していた反動によります。また、消費財の支出は横ばいでした。

一方で、民間投資は前年同月比1.3%上昇し、前月の1.5%から小幅低下しました。その主な理由は、国内外の需要の回復が依然としてゆっくりとしたテンポで、事業者の信頼感も改善してないためです。それに加え、工業部門の設備能力も未だ十分な水準にあります。

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6月の輸出は、前年同月比1.9%増の180億米ドルとなりました。金地金の輸出額が増加した結果であり、英国のEU離脱の国民投票結果を受けた世界市場の価格動向に沿ったものとなっています。いずれにしても、金地金を除けば、輸出額は1.6% 減となりました。貿易相手国経済の回復が遅れていることやタイの物品輸出の構造的問題が理由です。
商務省が発表した2016年7月の貿易統計によると、タイの輸出額(約174億)は前年同月比4.4%減(正式な数字発表待ち)となり、4ヵ月連続でマイナス成長となりました。その主な要因は、自動車・部品の輸出が同6.7%減となり、3ヵ月ぶりにマイナス成長に転じました。また、農産物・加工品の輸出が4ヵ月連続で収縮したことも一因です。

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品目別に見ると、7月の工業製品の輸出額は、同0.5%減となりました。自動車・部品の輸出が収縮したことが響きました。特にピックアップトラックの輸出額が同14.9%減となりました。コンピュータ・部品の輸出額は、同3.7%減でした。一方で、農産物・加工品は、前年同月比14.2%減少しました。天然ゴム、ゴメ、キャッサバなどが2桁減となったことが響きました。
2016年6月の工業生産に関しては、前年同月比0.8%の上昇で、前月の同2.6%増から伸びが減速しました。シート状ゴムなどのゴム製品の生産は干ばつによる原料不足から収縮したほか、繊維・衣料の生産も米国を初めとする海外からの引き合い減の影響で引き続き収縮しました。
しかしながら、電化製品は、特にエアコンの生産が伸びました。また、自動車、石油化学の生産は前年同月の数値が低いローベース効果から増加しました。
サービスセクターは、特に、観光業の成長が引続き拡大しました。外国人旅行者数は前年同月比7.2%増の243万人と好調拡大を維持しました。ほぼ全ての国籍の観光客数が伸び、中でもロシア人観光客数は、5ヵ月連続で増加しました。しかしながら、ラマダン(断食月)が原因で、マレーシアや中東からの観光客数は減少しました。

2016年7月のタイのインフレ率

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商務省が発表した7月のヘッドライン・インフレ率は、6月の前年同月比0.38%増から同0.10 %増となりました。上昇ペースは鈍化しているものの、果物・野菜と卵・乳製品の価格が高騰し、全体を押し上げました。品目別にみると、食品・飲料部門では、前年同月比1.83%の上昇で、前月の同2.80%増から伸びが減速しました。米・粉製品以外はプラスで、特に果物・野菜が同5.75%と高騰しました。肉・魚と卵・乳製品も食品・飲料全体の上昇率を上回りました。
一方で、振れ幅の大きい生鮮食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は、前年同月比0.76%の上昇で、前月から伸びが横ばいとなりました。

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2016年8月のタイバーツの為替レート

バーツ相場の変動については、バーツは、2016年8月16日には1米ドル=34.6バーツの終値をつけ、2016年7月19日の1米ドル=35.0バーツからドル安傾向が継続しました。その原因は、イギリスのEU離脱により、2016年中の米利上げの可能性がなくなったためです。

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一方、バーツ対円の変動について、2016年8月16日には100円=34.5バーツの終値をつけ、2016年7月20日の100円=32.8バーツから円高傾向を見せました。その原因は、世界経済の回復が遅れたため、投資家がリスク回避の姿勢をとり、円を買う動きが強まったためです。7月29日に日銀が追加金融緩和を決定しましたが、円安の効果はまだ見られません。

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サケーオ特別経済区の将来性と投資機会

タイ政府が指定した第1期の経済特区のうちサケーオ県は、工業団地造成が進められる最初のケースとして注目されています。現在でも県内に4ヵ所の国境検問所を有する同県を通じた国境貿易がさらに活発化することが期待されています。また、政府は、同県とバンコク首都圏やレムチャバン港などとを結ぶ陸路交通網の整備も計画しており、今後国境を通じた物品の動きがバンコク首都圏やその他海外市場とも連結していく可能性が高まっています。
サケーオ県は、カンボジアとの国境貿易に関しては最大規模であり、対カンボジア国境貿易高の60%を占めています。その主な理由は、サケーオ県が地理的にプノンペンをはじめとするカンボジア主要都市に近いことからです。また、サケーオ県は、メコン川流域経済協力枠組みにおける南部経済回廊開発の一環として予定されているタイ、カンボジア、ベトナム3ヵ国を結ぶ道路網の中でも、拠点となり得る位置にあり、対ベトナム貿易という点で見ても有力な立地です。
タイ政府は、サケーオ県経済特区開発のために、工業団地の造成と関連インフラの整備を急ピッチで進めています。それに加え、タイ投資委員会(BOI)を通じた投資誘致にも力を注いでいます。同経済特区でBOIにより優遇措置が受けられる業種は、農産・食品加工、アパレル、家庭用品、宝石、医療器具、自動車、電機、プラスチック製品、医薬品、ロジスティック、工業団地、観光の各業種で、当初8年間の法人税免税、その後5年間の50%減税などの優遇措置が講じられることになっています。
サケーオにおける投資事業で将来性が高い業種は多数あると思われますが、ここでは飲料製造、農産加工、倉庫・物流業の3業種について挙げます。

飲料製造業:カンボジアは、タイ製飲料の輸出先としてミャンマー、ベトナムに次ぐ第3位の国で、年間飲料輸出高の17%に相当する75億バーツを輸出しています。ほとんどが非アルコール飲料で、栄養ドリンク、豆乳、炭酸飲料、その他の加糖飲料などが多いです。カンボジア国内のこれら非アルコール飲料の需要は、国民の購買力の高まりや外国人投資家 ・観光客の増加によって急激に増大しています。しかしながら、国内における生産力は決して高くなく、品質水準も低いため、タイ製品の人気が圧倒的に高い状況にあります。このため、大小合わせた多くのタイ産ブランドの飲料が同国内で流通しています。よって、これら非アルコール飲料の製造工場がサケーオの経済特区に建設されて稼動すれば、市場に近い位置での生産が可能になります。

農産加工業:カンボジアのバンテイメンチェイ州は、サケーオ県と国境を接していますが、肥沃な土壌の平坦な土地が広がり、農業生産に適しているとされています。同国政府もこの地域の農民にキャッサバやトウモロコシなどの商品作物の栽培を奨励しています。サケーオ経済特区に農産物加工場があれば、原料調達が容易になります。土壌が肥沃なだけにカンボジア産の原料は、品質水準も高く、しかも価格はタイ産より安いです。大豆やキャッサバなど飼料や調味料の原料になり得る穀物をカンボジアから仕入れ、サケーオの工場で加工することができれば、税制面での優遇措置もあり、大幅なコスト削減に繋がります。

倉庫・物流業:カンボジアやベトナムの経済が成長し、国内需要が高まれば、モノの移動が増えることになります。特に、国内産業が未成長で国内需要に十分に対応する生産力が不足している段階では、外国からモノを輸入する割合が増える傾向にあります。そこにはタイからの国境を通じた貨物も含まれます。特に両国の消費者は、食材、消費財、建材など数多くの品目でタイ製品を好む傾向にあります。すなわち、サケーオ県内の国境各所からカンボジアやベトナムに向けた商品の輸出が拡大傾向にあることにより、サケーオ経済特区における倉庫・物流業への投資の将来性が高まることになります。
サケーオ県を通じたカンボジアとの国境貿易は、タイにとって依然として重要な貿易チャンネルの1つであり、今後も拡大していく傾向にあります。ここに経済特区と工業団地を造成することは的を得た選択であり、投資の誘致を通じて国境貿易をさらに活性化させていくことが可能になります。

本資料は情報提供を唯一の目的としており、ビジネスの判断材料とするものではありません。掲載されている分析・予測等は、資料制作時点のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、予測の妥当性や正確性が保証されるものでもありませんし、商業ないし何らかの行動の為に採用することから発生した損害の責任を取れるものでもありません。本資料の予測・分析の妥当性等は、独自でご判断ください。

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