ビジネス・経済 2018.04月号

タイ人社員の「地頭力」を鍛える

常に指示待ちの姿勢で、自ら考えることをしない部下に悩んだことはありませんか?
著書「地頭力を鍛える」(東洋経済新報社)で知られる細谷 功氏と、タイ・バンコクを拠点に組織人事コンサルティング会社Asian Identityを運営する中村勝裕氏に、企画業務や管理職に就くビジネスパーソンに必要な論理的思考力について、議論を交わしていただきました。

中村勝裕
愛知県出身。上智大学外国語学部を卒業後、ネスレ日本入社。その後、コンサルティング会社リンクアドモチベーション(東証一部上場)において組織変革コンサルタントとして数多くのプロジェクトに従事した後、GLOBIS ASIA PASIFIC において東南アジア各地における企業人材育成や、日本人の海外研修の企画や運営を担当。2014年よりタイに移住し、タイ人とともにAsian Identity Co. Ltdを設立。日本人とタイ人の混成チームで、日系企業の人材開発、組織活性化を支援するコンサルティングを行っている。

細谷 功
神奈川県出身。東京大学工学部を卒業後、株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ等の米仏日系コンサルティング会社にてコンサルティングに従事。専門領域は、製品開発や営業等の戦略策定や業務/IT改革。併せて問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して実施している。著書に『地頭力を鍛える』『アナロジー思考』(以上東洋経済新報社)、『会社の老化は止められない』(亜紀書房)等。2012年より、バンコクの泰日工業大学にて非常勤講師を務める。

価値観の衝突にどう向き合うか

細谷 前編(ArayZ3月号掲載)で中村さんが、地頭力を鍛えるためには講座を受けたあとに仕事の場で実践してみることも重要だとお話されていましたよね。地頭力の本質である、「結論から」考える仮説思考力、「全体から」考えるフレームワーク思考力、「単純に」に考える抽象化思考力をトレーニングするには、会社内に、議論の内容について社員同士がお互いにツッコミ合えるような関係性があると理想的だと思うんです。

中村 同感です。話していることの要点を指摘し合える文化が社内にあれば、より効率的な議論につながると思います。

細谷 コンテキストの異なる人同士が議論を交わすには、概念を抽象化して表現する必要性も出てきます。この作業がまた難しい。

中村 例えば、何気なく発した「あの人はリーダーシップがないよね」という一言でも、「リーダーシップ」が何を指すのか、その概念で認識や言葉が持つ意味は変わってきますからね。採用や社内評価に際しても関わってくることなので、軽視できませ ん。細谷さんの近著、『アリさんとキリギリス』では、文化や立場が異なる相手とのコミュニケーションについて取り上げていました。

細谷 会社内を見てみると、文化や国籍の違いだけでなく、イノベーションを生み出す人と、日々のオペレーションをまわす人の対立が繰り返されている構造がないでしょうか。「前例がないもの」に対して、「だからやる」という人と「だからやらない」人がいるように、1つのものに対して、完全に異なる2通りの考えが存在する。『アリさんとキリギリス』では、正しい、異なるではない、2通りの価値観の衝突とどう向き合うのかをテーマに書きました。多様性とは、価値観の違いを認め合うことなのだと思います。

中村 個人の価値観を表すツールとして細谷さんが開発された「DoubRing(ダブルング)」は、日タイ異文化コミュニケーションワークショップという講座でも取り入れていて、日本人とタイ人の差が目に見えて面白い。価値観は文化や置かれている環境によっても異なるものですが、意外と国籍ではないのかな、とも思います。国籍や世代に分ければ認識しやすいから、そう考えてしまうだけなのかもしれません。

AI時代だからこそ「考える力」が必要

細谷 テクノロジーの進化によってAIが言語の壁を超えていく時代が少しずつ近づいてきています。日本でも「地頭力」に対するニーズは上がってきている気がしていて、AI時代だからこそ、思考力の価値は上がっているのかもしれません。

中村 私は論理的思考力とはスキルのひとつで、仕事の生産性を上げるものだと思っています。必要なものを全体像から捉えることができれば、無駄なく効率的に仕事がこなせるようになるので。

細谷 論理的思考=ロジカルシンキングは習慣なので、見える世界が変わると、仕事の内容が変わってきますよね。

中村 1時間かけていたアウトプットが1分になるかもしれない。そしたら残った時間で、もっとほかのことにトライできるし、仕事に忙しさを感じずに済むようになる。経営者にとっては、会社としてできることが広がることを意味します。

細谷 日本人でもタイ人でも、生徒が論理的思考をもって、「そういうことか!」と気づきを得た時の表情を見る時は、すごくうれしい。性格もあるとは思いますが、責任感のある人が、何かを任されたりチャンスを得たりしたタイミングで、何かがきっかけになって一気に花開くケースってあると思います。

中村 講座というのも、受講者の方が自分の中で気づくまでの、きっかけづくりの一環なのだと思います。自転車に乗る練習をしていて、ある日乗れるようになるのと似ているかもしれません。繰り返しになりますが、上司が部下に、なぜ思考力を鍛えてほしいのかを伝えること、本人に理解してもらっておくことが、トレーニングの質を向上させることにつながります。6月22日に開催する【地頭・ロジカルシンキング】講座は、細谷さんの「地頭力」講座のプログラムをベースに、タイ人講師がタイ人向けに、タイ語で「考える」ことを体験してもらえるよう開発しました。体験することで考えていなかったことに気づく、あるいは考えるプロセスを体験する、タイ人に適した内容の講座になっています。組織力を高める一助になれば幸いです。

(次回、ArayZ5月号からは、中村氏と人材研究所の曽和利光氏との対談をお届けします!)

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