「人事」が経営を変える。(前編)

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

“人事とは、世の中を変えていくレバレッジポイントである”。
そう話すのは、多業界での人事採用を経て人材研究所を設立した曽和利光氏と、タイ・バンコクを拠点に組織人事コンサルティング会社Asian Identityを運営する中村勝裕氏。
会社組織のみならず、社会を変えていくほどの影響力を持つ「人事」の可能性について、お二人に語っていただきました。

中村勝裕
愛知県出身。上智大学外国語学部卒後、ネスレ日本入社。その後、コンサルティング会社リンクアドモチベーション(東証一部上場)において組織変革コンサルタントとして数多くのプロジェクトに従事した後、GLOBIS ASIA PASIFIC において東南アジア各地における企業人材育成や、日本人の海外研修の企画や運営を担当。2014年よりタイに移住し、タイ人とともにAsian Identity Co. Ltdを設立。日本人とタイ人の混成チームで、日系企業の人材開発、組織活性化を支援するコンサルティングを行っている。

曽和 利光
愛知県出身。京都大学教育学部教育心理学科卒業後、株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。2011年に株式会社 人材研究所を設立。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

【前編】なぜ日本には人事異動があるのか?

中村 日本もタイも、人事に関する原理原則が大きく異なるわけではありません。ただ前提として日本には終身雇用があり、タイは転職で人材が入れ替わるという環境面での違いがあります。そのためタイでは、「長期的に人材を定着させて活かす」という戦略的視点を持って仕事に臨む人事スタッフがまだあまり多くなく、どちらかというと給与計算や採用面接といった実務に陥りがちです。そこで曽和さんと年に4回、タイにおける人事スタッフの育成を目指し、バンコクで開講しているのが「HRカレッジ(人事の学校)」です。

曽和 HRカレッジは人事の全体像を学ぶ場になっています。理論なくして再現性はありません。普遍的な人事の原理・原則の学習を通じて、企業が取るべき人事施策を後押しできればと思っています。

中村 在タイ企業の人事マネージャーや日本人の経営幹部の方にも受講いただいています。日本とタイで異なる前提としてもうひとつ、ジョブローテーションの有無というのも日本人が知っておくべき点かもしれません。日本の企業には、社員を営業→人事→広報といった異なる部署にローテーションさせる人事異動の慣行がありますが、タイでは特定の職種のスペシャリストであることが人材の市場価値を上げるため、一般的にジョブローテーションは好まれません。

曽和 組織的に考えると、特定の職種のスペシャリストである人材を、別の領域の職種に異動させれば、一時的に(その人材が育つまで)その部署はパフォーマンスが落ちる懸念があるわけです。それでも日本の企業が人事異動を行うのは、社員の視野や領域を広げるためで、教育支援的な意味が強い。少子化で人材不足が進む日本では、あらゆる業務を把握した経営者候補を育成するという戦略目的でジョブローテーションを行う企業も増えています。

中村 日本では、ひとつの職種で1人前になるまでに3年~5年、熟練レベルになると10年ほどはかかるというのが共通認識だと思います。実際、仕事のスキルを身に付けるにはそれなりの時間がかかるものです。熟練レベルに達するまでにかかる時間に人種の違いは無関係のはずですから、タイでよく見られる、2年ほどで「もうこの会社で得るものはない」と満足して転職する人材の中には、もしかすると「できる」と勘違いしてしまっている人もいるのではないでしょうか。企業は社員に対して定期的に新たなミッションやタスクを与えたり、ジョブローテーションという方法だけにとどまらず、人材に長く働いてもらえる仕組みを構築する必要があると思います。また、本人の成長を考えた教育支援の意思が会社にきちんとある、と伝えることも重要な作業です。

人事担当者が経営のキーパーソンになる

曽和 一般的に企業がスピーディな成長を目指す場合、スペシャリスト人材を活用した方が効率的で、理にかなっています。タイの経済が成長期にあることも、スペシャリスト人材への需要が大きい理由かもしれませんね。ただ、タイは少子高齢化が確実ですし、企業が成長期から成熟期を迎える時は必ず来ます。その際、幅広い職務領域のファンクションを知っているマネジメント人材は絶対に必要です。中でも人事領域の知見というのは欠かせない能力で、人事スタッフだけが知っていれば良いというものではありません。

中村 国家レベルの話でいうと、タイ政府が目指している国の産業構造の高度化には、高度人材の育成も重要アクションとして含まれています。高度人材の育成を担う人事担当者は、企業の経営だけでなく、国の発展にとってもキーパーソンなんですよね。

曽和 そう、人事は世の中を変えていくレバレッジポイントだと思うんです。労働者不足と賃金の高騰などの理由から、製造業のみならず、多くの在タイ企業がビジネスモデルの転換を必要とし始めています。人事の仕事も工場ワーカーの賃金計算など単純なものから、知的労働者の採用やリテンション、育成などの企画業務に変わってきています。そうした変化を作ることに、我々の活動が貢献できればうれしいです。

中村 HRカレッジでは同じ内容、同じ量の知識を共有してもらえるよう日本語とタイ語の通訳を交えて講義を行っていますので、是非、日本人管理者とタイ人人事マネージャーの方にセットで参加していただきたい講座です。企業の国籍や規模、形態を問わず実践に落とし込めるような構成になっています。

(ArayZ6月号に続く)

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

gototop