もう悩まない!人材採用&育成のコツを解説 Vol. 12 タイ人事相談室|en world

『獲得した優秀人材を定着させ、活躍させられる組織づくりのポイント』の1つ目、評価と報酬について、マーサー・タイランドで組織人事コンサルタントとしてご活躍の仲島基樹さんにご意見を伺っていきます。


仲島基樹 motoki nakashima
Mercer (Thailand) Limited.
Principal, Talent Consulting,Japanese Business Advisory
日系・米系保険会社、日系IT大手を経てマーサーに入社。プロジェクトディレクターとして国内外の企業に対するコンサルティングプロジェクトをリード。組織・人材戦略の立案から、人事管理実務まで幅広い分野において支援を行う。現在はタイ・バンコクオフィスを拠点とし、ASEAN各国の在外日系企業に対する支援を行っている。慶應義塾 大学経済学部卒。

「評価と報酬」を考える(後編)

下川 タイ人への権限委譲がうまくいかず、現地化が進められないというお悩みも伺います。

仲島 その場合は〝影響の大きいポジション〞ではなく〝周辺的なポジション〞から変革を狙うほうが効果的かもしれません。優秀人材が活躍できる新しい部署またはポジションを作り、まずはそこで成功させることで社内の信頼を得ることが重要です。その後で問題のある部署にその優秀人材を投入すれば、周りも納得して変革に協力するようになるでしょう。

下川 優秀な人材に、会社のビジョンをどれだけ具体的に伝えられるかも大事ですよね。

仲島 そうですね。それがないと優秀な人材でも何をして良いのか分からず、働きがいを失ってしまいます。会社のビジョンを描き、伝えることは容易ではありませんから「どうしたら社員が動いてくれるか?」を考えるところから始めてはどうでしょう。それを伝えるコミュニケーションの基盤になるのが人事制度―すなわち役割を決める「等級制度」、行動をガイドする「評価制度」、そしてインセンティブを与える「報酬制度」です。
タイ人はどれだけ頑張れば、どれだけ報われるのかを明確にしてほしいと考える傾向があります。そこが曖昧になっているようであれば、一度人事制度を見直した方が良いかもしれません。

下川 社員に対する期待を言語化して、組織内のコミュニケーション・ツールにしたものが人事制度、ということですね。

仲島 その通りです。逆に部下が上司の期待値を十分把握していて、そのパフォーマンスが適切に評価されていれば、大げさな人事制度は必要ないとも言えます。あくまでも個々の企業が置かれた状況によるということです。

離職率の高さに悩んでいたある日系企業は、タイ人の人事担当者から、原因は「報酬」にあると報告を受けていたそうです。しかし掘り下げてたみたところ、本当の原因は「不公平な評価」にありました。社内用語は英語であるにも関わらず、日本人は日本語のできる社員ばかりと意思疎通を図り、かつ日本語手当が英語手当よりもはるかに高く設定されていました。それを見て、「日本語ができる社員しか評価されない」と感じた多くの優秀な社員が辞めていきました。

この問題への解決策として行ったのが、等級・評価・報酬制度の見直しと、評価者研修です。日・タイ双方のマネージャーが求められる人材像を正しく理解し、各々の評価でバラツキがあった点を話し合うなどの対話や調整を繰り返し実行したことで、形式的でない適切な評価ができるようになり、最終的にはタイ人から日本人への信頼を回復することに成功しました。人事制度の設計と運用が、社内コミュニケーションの基盤となっていることを示す好例だと言えるでしょう。

優秀な人材を定着させ、現地化を推し進めるためには「期待値の共有」が不可欠です。その基盤となる人事制度が自社にふさわしいものになっているかどうか、一度点検してみるのも良いかもしれません。

下川ゆう yu shimokawa
en world Recruitment (Thailand) Co., Ltd.
日系チーム チーム・マネージャー
立教大学卒業。大手人材紹介会社の東京本社で経験後、2009年に来タイ。以来、在タイ日系企業への人材紹介に従事。顧客企業の組織発展のための採用支援を得意とし尽力している。

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