ビジネス・経済 2018.03月号

日系企業がタイで 土地取得するための基礎知識

タイの事業用不動産事情

日本からの対タイ不動産投資は増加傾向にあるが、タイにおける土地取得に関する手続や申請は複雑で分かりにくい。基礎的な不動産法制と外資規制を整理し、日系企業がタイで実際に土地を取得し事業を進める際の投資スキーム、方法について、事業用不動産取引に実績のあるGDM (Thailand) 代表の高尾博紀が解説。

GDM (Thailand) Co.,Ltd.
代表取締役社長 高尾博紀

タイ不動産関連法

タイにおける不動産の定義、売買、賃貸借、使用貸借など、一般的な規則は民商法典(Civil and Commercial Code)で定められています。これに付随するかたちで、土地法(Land Act B.E.2497(1954))、およびコンドミニアム法(CondominiumAct B.E. 2522(1979))といった特別法が存在しています。

タイでは一般的に私人による土地の所有が認められており、土地の売買など、不動産および不動産に関する物件の取得は民商法上、契約書などの書面により法律行為がなされ、書面による合意と登記によって法的効力を発することになります。

土地の登記

土地の登記制度で押さえておくべきは、土地の所有権を証する権利証書「Chanote」(チャノート)です。Chanoteは、当該する土地の管轄の土地事務所(Land Office)により原本が2部発行され、1部は土地の所有権者が、もう1部は当該土地事務所が保管します。

しかし、タイ国内の一部ではChanoteが発行されていない土地もあり、そのような土地においては各種証明書(Ngor Sor Saam Gorなど)によって、売買の可否、売買方法などが決められているため、取り扱いには注意が必要です。

建物については、所有権を証明する証書は存在せず、証明は売買契約証書(土地事務所に登録)によって示されることになります。また、建物建設の際に取得する建築許可証(Construction Permit)も、建物の所有権を示す証拠として効果を持ちます。

土地取得の外資規制

タイにおける土地の取得前段階として、外国人による土地取得の規制について触れたいと思います。

日系企業がタイで土地を取得する際には、土地法上の外資規制に加え、外国人がタイ国内において行う事業を規制する、外国人事業法( Foreign Business Act)が関係してきます。原則、外国人はタイの土地を所有することができません(土地法第8章)。ここでいう外国人とは、タイ国籍以外の個人を指すと解されます。

また外国人事業法においても、外国人による土地取引業は禁止されています(外国人事業法8条1項)。外国人事業法における「外国人」とは、外国側の登録資本の保有割合が49%を超える。または外国人株主の人数が全株主の過半数を占める株式会社などを指します(同法第97条)。

また、土地法に基づく土地取得の外資規制においては、登録資本を構成する株式の49%超が外国人により保有されているタイの会社が「外国人」に該当するとされており、外国人事業法と土地法の外資規制における基準は若干異なっているので留意が必要です。

これらの所有規制をクリアできる条件を整えるのは相当難易度の高い作業となりますが、ビジネス目的であれば、タイ投資委員会(The Board of Investment of Thailand、通称:BOI)の許可を得る方法(投資奨励法第27条)や、タイ工業団地公社法(Industrial Estate Authority of Thailand Act B.E. 2522(1979)、通称:IEAT)を利用することで、取得は可能です(タイ工業団地公社法第44条)。

近年では日系金融機関傘下の投資会社の出資サービスを利用したタイ内資会社を設立し、その法人で土地を取得するというスキームも多々見られます。土地事務所の審査官によっては、出資者の出資者を複数レイヤーにわたり遡ってチェックしますので、土地取得実行に移る前に事前確認が必要です。

なお、タイでは外国人、外国法人に対する厳しい土地所有規制が課せられており、外国人、または外国法人に代わってタイ人が土地を取得するといった、いわゆる名義貸しを行うことも土地法により禁止されています(土地法第96条)。違反した場合は2万バーツ以下の罰金、もしくは2年以下の禁固、またはその併科の対象となります(同法第113条)。名義貸しにより取得した土地は、指定された一定期間内に売却などの処分をしなければなりません(同法第94条、96条)。

建物は土地と別個の不動産として所有権の対象となり、外国人や外国法人による建物の所有を制限を定めた法令は特にありません。そのため、外国人や外国法人であっても建物であればタイでも自由に取得、所有できますが、建物単体の登記制度や所有権者を証明する権利証制度が存在しないという問題もあります。

このように建物の売買の際には、土地売買とは異なる手続きを踏む必要がありますので、専門家と事前確認をすることをお勧めします。

 


土地事務所(Land Office)

土地の売買契約

タイ土地制度の歴史的成り立ち
タイではその昔、国王がすべての国土を所有していました。国王が国民に土地を利用する権利を付与する、という体制(以下、利用権)が取られており、いわゆる大陸法の土地所有権のような概念はありませんでした。それゆえ、この利用権を証する書面であるNor. Sor. 3(NS3)は、一般的には当該土地を長年にわたり利用できるという証明として理解されています。
20世紀前半、法制度改革により、一般に登記上の権利者が真正な権利者であることを国が保障する、英米法の土地登記制度「トレンス・システム(Torrens System)」が導入され、土地登記局が設立されます。1935年にはタイ民商法において、大陸法的な土地所有権制度が導入され、タイ民商法下では、国王から付与された利用権に対する保護は与えられないこととなりました。
これにより、国民は土地の所有権を取得する必要がありましたが、土地の所有権を証明するための権原証書(title deed、タイ土地権利書「Chanote」)の発行が進まず、土地取引に混乱が生じました。翌年、同制度に修正が加えられると、旧来の制度である土地の利用権についても保護されることとなり、Chanote発行済みの土地に係る「所有権」に加え、Chanoteが未発行の土地に係る旧来の「利用権」も保護されることとなりました。

まず土地の売買の合意、売買金額に加え、当事者や土地の権利に関する表明保証、売買代金の支払いの実行前提条件、必要な許認可の取得に関する誓約事項など規定することが肝要です。土地の譲渡に際しては、管轄の土地事務所において、登記官の面前で所定の売買契約証書に両当事者が署名し、その場で登記申請を行います。

なお、売買契約証書に関しては定型の書式が定められており、詳細な条件の規定は想定されていません。そのため実務上、まずは当事者間で詳細な条件を規定した売買契約を別途作成・締結し、そのうえで、その主要条項のみを売買契約証書に反映、登記官の面前で署名する作業が多くあります。

登記の申請から完了に要する期間は、登記に先立ち公告が必要な場合や申請書類に不備があるような場合を除き、通常は1営業日以内となります。

ただし、利用権証書が発行されている土地について、土地の調査に基づき境界確定がなされていない場合(NS3GやNS3Kが発行されていない場合)は、登記を行う前に30日間の公告期間を経る必要があります。


当事者間同士での条件調整
土地事務所の登記官前で登記申請

不動産の賃貸借

土地や建物の賃貸借について、民商法典上では最長30年まで可能とされており、さらに30年の更新を行うことも可能です。

しかし、更新オプションは登記不可のため、その土地や建物が譲渡された場合、新所有者によって更新オプションを破棄される可能性があり注意が必要です。

また3年を超える賃貸借契約については、土地事務所に登記する必要があります。登記しない場合の拘束力は3年間までとなり、そのため、オフィスの賃貸借期間は登記義務を避けるため、3年以内に設定するのが一般的です。一定の条件を満たす商工業用の賃貸借については、商工業用不動産賃貸借法(Act on Lease of Immovable Property for Commercial and Industrial Purposes B.E. 2542(1999))により、最大50年まで認められています。

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