バンコク不動産投資

第24回 疑問の残るアシュトン・アソークの引渡し期限延期

第24回 疑問の残るアシュトン・アソークの引渡し期限延期

半年前、第18回コラム(2017年10月号)で筆者はそのロケーションの優位性から投売りの出ていたアシュトンアソークの底値買いを勧めた。ところが、3月14日付で同プロジェクトの事業体であるアナンダーMF(三井不動産)アジア・アソークカンパニーから、突然アシュトンアソークの引渡しを1年延期するとの書簡が届いた。

内容はいたって簡単で、政府の認可が遅れているので1年延期するというだけである。何かがおかしい。一体、何が起こっているのかよくわからず、筆者の日本のクライアントからも問い合わせが相次いだ。こんなことなら推薦すべきではなかったと後悔したが、後の祭りである。

そこで筆者が業界関係者に聞いたところ、どうやらアシュトンアソークは敷地出入口付近で地下鉄MRTの土地を専用使用しているために、役所から建物使用許可が降りないという情報を入手したのだが、そうこうしているうちに、株式ニュースでアナンダーの株価急落に関するこんな記事が流れた。

「アナンダーはアシュトンアソークの所有権を購入顧客に移転するために、バンコク都の建物使用許可証を得なければならい。しかし、既にその入手期限も過ぎ、売買契約書上の顧客への所有権移転の最終期限である3月26日に引き渡すことができなくなった。
現在、アナンダーはバンコク都に対し、建物の使用について6月中には許可してくれるように請願しているが、もしアナンダーがこの建物使用許可証を入手できなかった場合、最悪アシュトンアソークの所有権移転は2019年末まで遅れることになる」。

アシュトンアソークはアナンダーと三井不動産のJVであるが、当初は昨年末に竣工引渡しを迎える予定であった。しかしその時も、顧客から残金支払いを受け取っておきながら、明確な理由説明もなく一方的に引渡しを延期した経緯がある。

そして、その株式ニュースによれば、今回の延期理由は以下ということだ。

1.MRTA(地下鉄)とバンコク都に対してアシュトンアソークがアソークモントリー通りからの出入口として使っている土地は実は地下鉄MRTの土地であり、バンコク都がそれをアシュトンアソークに専用使用させる許可証を出したことに対して訴えが起こされた。

2.アナンダーは訴えられている当事者ではないが、その土地の使用許可証の恩恵を受けている。しかし、バンコク都がその訴えのためにいまだに建物使用許可証を発行しておらず、その結果、アナンダーも購入顧客に所有権の移転ができない状況となっている。
今後のベストシナリオは、アナンダーの請願が通ってバンコク都から建物使用許可証が出れば、アシュトンアソークの所有権移転は2018年6月に開始できる。しかし、最悪のケースでは、2019年末まで引渡しが遅れる可能性がある。

記事の内容は以上だが、ここまで読むとアナンダーは善意の第三者のようにも思えるし、売買契約書のフォースマジョアー(不可抗力)条項を適用して引渡し期限を延期するのも仕方がないようにも見える。

しかし、デベロッパーは何かあるとすぐこれを逃げ口に使う。
もし、本当に公共の土地として使われていた敷地であれば、そんな土地に専用使用権が簡単に与えられるはずがないと思うのだが、アナンダーはそもそも適切な手順でその専用使用権を入手したのだろうか。

そして3月28日、突然、アナンダーからインセンティブオファーというおかしな通知が届く。その概要は、もし1年以内に引き渡しができれば一部値引きをするが、引き渡しができない場合はこれまで受け取ったダウンペイメントを全額返還することで合意してほしい。もし、1年間待てないならこれまで受け取った代金を直ちに全額返還も可能。また、他のアナンダーのプロジェクトとの交換も可能。ただし、このオファーには1週間以内の合意が必要、というどこがインセンティブなのか不明の、将来の顧客とのトラブルを恐れ、今のうちに事前合意を取りつけたいだけとしか思えない一方的なものであった。

今回の引渡し遅延により被害を被るのは購入した顧客であり、どうしてアナンダーはもっと誠実に状況説明をし顧客対応をしないのだろうか、そしてバンコク都に対してもっと強く抗議しないのだろうか。

そんなことを考えると、最近はタイでもデベロッパーに対してCRM(顧客対応管理)の重要性が指摘されつつあるが、日本人投資家もそれができないデベロッパーに対しては、大手であっても今後十分警戒するべきだと実感した次第である。


藤澤 慎二
前職はドイツ銀行の国際不動産投資ファンド、RREEFのシニア・アセットマネジャーで米国公認会計士。現在はバンコクに在住し、自身のブログ「バンコクコンドミニアム物語」(http://condostory.blog.jp)で、バンコクの不動産マーケット情報を発信している。

連絡先:087-481-9709
bkk.condostory@gmail.com

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