ビジネス・経済 2017.12月号

【タイ】タイ労働相、突然の辞任=外国人就労規制の波紋広がる(バンコク支局 近藤泉)

タイのシリチャイ労働相が今月初め、突然辞任した。プラユット暫定首相がシリチャイ氏の側近の一人で外国人労働者の就労規制を担当する労働省局長を更迭したことに反発しての行動とみられる。クーデターで権力を掌握した現政権にとって、屋台骨を支える軍出身閣僚が辞任するのはこれが初めて。

長蛇の列

プラユット首相が更迭した労働省のワラノン職業あっせん局長は、今年6月に制定された「外国人の就労管理に関する法律」の対応に追われていた。タイでは労働許可証を持たないミャンマーやカンボジア、ラオスなどからの外国人が推計で200万人超就労している。こうした「不法入国外国人」は正規の書類を持たない弱みを雇用者につけ込まれ、低賃金や劣悪な環境での労働を強制されているケースも少なくない。

人権団体や欧米政府の批判もあり、タイ政府は就労を希望する外国人に2018年1月までの労働許可証取得を義務付けた。違反者本人には懲役5年または罰金2000~1万バーツを、外国人の違法な雇用や人権侵害を犯した雇用者には労働者1人当たり最大80万バーツをそれぞれ科すなど、厳しい罰則を盛り込んでいる。

新法の内容が明らかになった6月以降、各地の入国管理事務所などでは必要な手続きを行うために外国人労働者が長蛇の列がつくるようになった。ワラノン氏は手続きを迅速に進めるための態勢整備に腐心したが追いつかず、労働許可証の交付リストに登録できた外国人はこれまでにおよそ70万人にとどまっている。

労働許可証申請手続きのため、タイ北部ターク県メソトの入管事務所で列を作るミャンマーの人たち(AFP=時事)

首相の激怒

各地に設けられた臨時の受付窓口では列を組む外国人に声をかけ、対価を払えば最前列に行けるよう手配するなどと持ちかけるダフ屋まがいの集団も出没。10月31日には南部ラノン県の入管事務所幹部がミャンマー人労働者に優先的に許可証を発行する見返りに、こうした集団から賄賂を受け取ったとして逮捕された。

地元メディアによると、政府首脳陣は申請者の本人確認を効率的に行うための網膜認証機を導入するよう労働省に指示したが、ワラノン氏は導入費用に見合うだけの効果があるかどうかを検証すべきだとして難色を示し、プラユット首相の激怒を買ったとされる。
同首相は今月1日、超法的権限を行使してワラノン氏を更迭した後、シリチャイ労働相と会談し、更迭の事実を伝えた。労働相の辞表提出はこの会談直後だった。同省関係者は、ワラノン氏はシリチャイ氏が職業あっせん局長に直接指名した人物で、「大臣が最も頼りにしていた側近だった」と証言する。

労働許可証を取得するための膨大で難解な書類作業が生み出した多くの不法入国者は、一方で安価な労働力の供給源となり、タイ産業を下支えしてきた面も否定できない。外国人の就労管理に関する法律はこれを根本から覆すだけに、その波紋は労働行政トップの辞任にとどまらず、産業界や労働界など多方面に広がっている。

※この記事は時事通信社の提供によるものです。(2017年11月8日記事)

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