【連載第12回】但野和博のコンサルコラム サポート実録記“タイの経理現場より”

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ダラート社編(2)「長すぎたコミュニケーションレス」

【前回迄のあらすじ】
~タイ側株主との面談の立ち会いに通訳とセットで依頼されたスポット案件。日本側株主の主張に全く聞く耳を持たずいきなり修羅場のような雰囲気の中、こちらの立ち位置としてもどこまでのサポートができるのかと、考えあぐねがらも話は続き…~

銀戸専務の視線を強く感じつつも、こんな状況である。当事者ではない立場としては、話が進行するくらいには間を取り持ちながら、当事者間の話の流れを断ち切らないようにフォローするくらいは最低限求められているだろう。
ダラート社はタイに進出してきて間もなく1年。ジャイディーさんはタイ側のパートナー株主として会社設立前から設立手続き、経理業務など含め面倒を見てくれている。こういう背景もあり、この時のジャイディーさんの言い分には確かに一理あった。「最初はご縁もありできる限りサポートしたが、設立後は速やかにほかのタイ人パートナーを見つけて変更してほしい。それが前提だったはずだ」。本人曰くダラート社にはずっと言い続けてきたと。そしてその間、ダラート社側は特に目立ったアクションもせず、事ここに至っているとも。
一方ダラート社側の主張は「新しいタイ人パートナーは現在候補先に打診ををしているところなので少し待ってほしい。資金周りのところは契約書としてきっちり残して進めたい。その上でも遅くはないのではないか」というもので、確かにこちらも一理ある。(※1)
ただ、ダラート社側としてはこのアクションが遅すぎた。なんせ手付かずで1年である。ジャイディーさんの主張を話半分として聞いても、ダラート社のこの時の内部事情からすると、会社設立から現在の経理まわりの運営も含めてほとんどおんぶに抱っこであった。ダラート社からこれまで何らフォローがなかったという現状を踏まえると、相手に悪意があった場合は何でもできてしまうというリスクを放置していたに他ならないものだった。( ※2)
銀戸専務からは「何とか話を進めてほしい…」と、ジャイディーさん側に同席している会計士からは「当事者ではないから通訳としてだけいてくれれば良い…」と。隣で同行してもらった通訳からは「もう帰りたい…」と、三者三様の目線が面談中何度もこちらに注がれるのであった。
(次回に続く)
※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

(※1)
タイでサービス業を手がける場合、よく知られているようにほとんどがタイローカル企業、もしくはタイ人個人と合弁で会社を設立せざるをえない背景がある。そんな中で軽視されがちだが、たまたま紹介されただけのタイ側の人と合弁で設立したまでは良いが、設立時にその後の運営を見据えた体制などあまり考えずに、当初紹介された時の良い雰囲気に任せてそのまま進んでしまうことがある。
もちろん進出したばかりで、何をどうして良いか質問すら出てこないくらい知らないことばかりの状況では任せるしかない場面は多いが、少なくとも最初に決めておかないといけない運営体制などについては、双方の運営領域を含め書面にて同意しておくほうが良い。出資や借入など資金周りは言うまでもないが、タイ側、日本側が運営においてどのようにどの程度関与するのかは時間が経てば経つほど曖昧模糊になってしまうので、始めにある程度方向性だけでも決めておくべきところである。
(※2)
タイでは署名権者を登記上定める決まりがあり、登記上取締役である必要も出てくる。日系企業の場合、タイ人のみで構成している会社はあまり聞かないものの、署名権者にエントリーされている日本人が常時タイにいないケースも結構存在する。
日本側の事情もあろうが、思ったよりも署名権者が署名する場面が多いため、日本との間で定期的なものはEMSのやり取りで何とかなるかもしれないが、現場としては突発的な対応などもあり、現場がワークしないことも多くなるのでお勧めはしない。
また長く一緒に仕事をしてきたくらい信頼のできるタイ人であれば良いが、丸投げのタイ人パートナー、もしくはパートナーが用意したタイ人が最初から署名権者になっている場合で且つ日本人署名権者が常駐しない場合は、それこそ全権を持ってなんでもできる状態になり、不正の温床にもなりかねない。

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Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、
顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan@aporter.co.th
http://aporter.co.th/

 

tadano
但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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