【連載第32回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

accounting porter

ラカン社編(第3回)「まずは要因の特定」

~現地MD歴早10年の空川さん。本社経理サイドからの要求が増えてきたので、営業や統括業務に集中できるようにと弊社で財務諸表レビューを受けることになった。矢継ぎ早に始めた質問から見えてきたものとは…~

「日本からの為替仕入れレートと売上時の売価の値決めを3ヵ月毎に見直しているために、ズレが生じているようですね。この時点での認識でなんですが、為替が安定している間は良いとしても、変動が大きい場合、理論上の数字で管理しているデータベースファイルとの差異がどうしても出てきてしまいます」。

「そうなんですよ。しかも売上時の売価については、クライアント毎に対応が異なり、為替リスクに対応してくれる先と対応してくれない先があるんです。ですので、値決めタイミングの取り方によっては結果的に適正な利益を上乗せした売価になっていないこともありえます」と空川さん。
「一番良いのは今回のような差異を検証するために、商品毎、クライアント先毎の入出庫管理レベルまで個別原価計算されるところでしょうが、商品アイテム数や対応スタッフ数などを考えると、一気にそこまで持っていくのは至難の技です。経理・営業情報が連動したシステムの導入もしくは代替的な仕組みが根本的に必要となり、予算もかなり膨らんでしまいます」。
空川さんも、恐らく本社はそこまで費用をかけてまで…とは思っていないことはわかっている。現地法人の立場からはなかなか推進し難いものだ(※1)。
「それから、今回の差異の要因の一つに輸入関税があるようです。データベースファイルは事前に一律5%で入力する仕様になっていて、この暫定的な数字と実際の数字と差異が生じてしまいます。それ以外の原価性のあるコストなどに関しては、減価償却費といったごく少額のものを除いて、データベースファイル入力時には同じ数字を反映しているため輸入関税分がズレてくるのです」(※2)。
「先ほどの為替換算レートの見直しによる期間ズレも多少なりともあるでしょうし、稀に発生しうる不良資産の処理のズレや、それ以外の原価でも、倉庫管理会社かデータベースファイル上のどちらかで計上が漏れれば、それがそのまま差異として現れてしまいます」。
要因の特定はできてきたので、次は細かい会計まわりの実務手順のフォローだ。今は片手落ちの状態であり、今回のミッションは、クライアントが今後、自力で対応できるようなアプローチ法の提供までがミッションとなる。さあ、その内容とは…。
(次号に続く)
※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

(※1)
このような管理には、SAPなど営業にも人事にも経理にも多方面に対応できる一元化されたシステムの構築や導入が一番手っ取り早い。しかしよほど大きな会社でなければ、いや大きな会社であっても予算の制約からすぐに導入できるものではないのが現実だ。中小企業クラスでもシステムの導入について本社の理解が進んでいる会社もなかにはあるだろうが、そういった場合は本社システム部門や経理・総務部門などが旗振り役となって動いてくれていることがほとんどだろう。現地法人側の要請でシステムの導入が進むことは稀ということを前提に、いかに運用でカバーできるかをまず検討し、その上でどれだけのメリットがあり、現状維持した場合のデメリットを上回るということを説明できれば、本社としてもいよいよ耳を傾けてくれるかもしれない。というくらい肩身の狭い思いをしている現地法人は結構ある。

(※2)
今回のように営業側と経理側のシステムが連動していない場合、そもそもシステムの用途がお互い違うことと、経理で言うところの収益・費用の認識タイミングが違うことが、差異が生じる原因であることが多い。用途が違えばそれぞれの機能が違うため、機能を理解し、システム改良や入れ替え以外のところの運用でカバーするのであれば、差異の認識をなるべくどちらかに合わせるしかない。営業が予算・実績をキャッシュベースや受注ベースなど、顧客動向なども含めたリアルタイムの管理に重点を置いているのに対して、経理は発生ベースでトラックレコードに重点を置いている場合が多い。そのため、営業側の便宜を優先した暫定的処理を経理上の管理にある程度近づけるか、あるいは経理上の管理に営業側の処理を寄せるか悩ましいところだが、運用でカバーするためには社内調整は避けられない。

accounting porter
Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke), Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、
顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadano@aporter.co.th
http://aporter.co.th/

tadano
但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。
本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

gototop