【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

【連載】半歩先読み、タイ自動車市場 ~タイ自動車ユーザの実態と展望~ 第3回 現エコカーユーザは、必ずしも次もエコカーを買うわけではない

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第3回 現エコカーユーザーは、必ずしも次もエコカーを買うわけではない

NRIは、「エコカー」「ピックアップ」「E85対応車」「安全性・装備」の4項目を選び、ユーザニーズの変化と政策の効果を検証した。具体的には、バンコクおよび地方都市ウボンラーチャターニー(以下、ウボン)で対面式の簡易アンケートを行うことで、 ユーザニーズを把握した。本稿では「エコカー」の結果について述べる。

エコカー政策の内容と影響

エコカー政策(第一弾)とは、性能要件を満たす小型車(エコカー(※ 1))の国内市場拡大および生産拠点の整備拡充を目的とした政策である (※2)。政策実施の結果、エコカーのタイ国内新車販売シェアは、2010年に約4%だったが、2013年には約14%まで拡大した。
一方で、エコカーの市場規模は、エコカー事業の承認を取得するために満たすべき生産規模と比較して、現時点でも十分とは言い難い。エコカー政策(第一弾)で認可を受けた5社の2014年における合計生産台数は、最終的に満たすべき生産規模要件 (計画申請から5年目以降の年間10万台エコカー生産)の約5割にとどまる(表1)。

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タイ政府は、エコカー政策(第二弾)を実施することを正式に発表しており、エコカー市場の拡大と生産設備投資の誘導を継続して推進していく構えである。しかし、生産規模要 件との開きが大きい日系企業にとっては、エコカー市場の将来性・持続性が本当にあるのかを検証していく必要がある。

エコカーに対するユーザニーズ

簡易ユーザアンケートの結果、特にバンコクのエコカーユーザにおいて、「次はエコカーを買わない」という層がみられた。理由としては、車の大きさに対する不満(乗車定員)、見 た目・デザイン性への不満(内外装)が多く挙げられた。また、相対的に所 得が低く、エコカーとの親和性の高い地方都市ウボンにおいても、次にエコカーを希望しない層が一定量見られた(表2)。

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これらを踏まえると、過去のエコカーは、エントリーカーとしての位置付けが強く、継続的に同じユーザに受け入れられる車とは言い切れないといえる。そのため、日系企業は、過去のエコカー市場を、エコカー政策や「First Car Buyer」減税などの政策的サポートにより勃興した短期的な市場ととらえ、同タイプのエコカーについては、設備投資をより慎重に考えていく必要があるといえる。
一方で「エコカーを選ばない理由」を克服した「新しいエコカー」であれば、これらのユーザを取り込める可能性が存在しうる。日系企業にとって、「新しいエコカー」の市場 性・事業性の有無の検討は有益と考えられる。さらには、タイ人の志向に合うように「エコカー」の性能要件を変更するようタイ政府に働きかけていくことも、中長期的な取り組 みとして重要だといえる。
次回は、簡易アンケート結果を踏まえて、ピックアップユーザの購買傾向について考察する。
(次回、ArayZ9月号に続く)

※1 エコカーの性能要件:燃費20km/L以上、欧州Euro4対応、排気量1,300CC以下(ガソリン車の場合)
※2 投資要件(50億バーツ以上の投資)、現地調達要件(エンジンなど一部部品の国産化)、生産規模要件を満たす企業に対して、法人税や物品税を優遇する政策

 

執筆者:野村総合研究所タイ

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シニアコンサルタント
山本 肇

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主任コンサルタント
吉村 英亮

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《業務内容》 経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F,
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URL: www.nri.co.jp

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