【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

【連載】半歩先読み、タイ自動車市場 ~タイ自動車ユーザの実態と展望~ 第7回

第7回 タイの自動車生産・市場の回復の見通し

本稿では、タイの自動車市場の直近の動向を踏まえながら、今年以降の市場の回復の見通しを展望する。

タイの販売の現状と見通し~2016年に底を打つが、回復は緩やか

タイの国内自動車販売は、2016年1~11月に前年比2.3%減68万2千台に達し、通年で76万台程度と、前年の80万台に届かない情勢だ。2012年に過去最高の145万台を記録した後、4年連続で販売は減少したことになる。第三四半期までは、一昨年末の税制変化の駆け込み需要の反動は予想よりも小さく、ほぼ前年並みで推移していたが、農産物価格低迷による地方消費の低迷やプミポン国王崩御の影響で10月半ば以降の個人消費の減速が足を引っ張った。

昨年で底を打ち、今年は市場は80万台に回復するというのが業界の一致した見方だ。今年の市場回復要因として①2012年末まで実施された「初回車購入者に対する税恩典措置(ファーストカーバイヤープログラム)」で購入した新車の代替需要、②今年後半に予定されている選挙に伴う政府関連支出の増大、③今年後半以降の高速鉄道や道路等の大型公共投資の本格化、の3点が挙げられる。

「ファーストカーバイヤープログラム」で購入した車は、5年以内に転売できないという制約があった。今年後半以降、5年の期限を迎える車が市場に出る結果、代替需要が期待される。特に、今年は、トヨタ、ホンダ、マツダ等から主要モデルのフルモデルチェンジや新型モデルが予定されており、代替需要の刺激につながりやすい。
プミポン国王の崩御にともない、今年末までに予定されていたタイの総選挙が延期される見方が一時期強まった。しかし、新国王が12月1日即位した後、新憲法の署名、戴冠式等が早期に実施されると、選挙の前倒し実施の可能性もある。

短期・中期的な懸念要因~ 地方経済の疲弊と家計負債

その一方で市場回復を遅らせる要因として、疲弊した地方経済と中間所得以下の高い家計負債が挙げられる。農産物平均価格は、ピーク時の2012年に比べて2割以上下落しており、特にコメ(ジャスミンライス種)は、この昨年10月に9年ぶりの最安値を記録した。南部経済を支えるゴム価格も、中国経済の減速の影響で、ピーク時から3分の1以上下落した。農産物価格の低迷により、総人口の4割以上を占めるタイの農民人口の消費の回復を妨げている。また、「ファーストカーバイヤープログラム」等の消費ブームにより家計負債が増える一方で、景気低迷により収入が伸び悩んだ結果、特に中間所得層以下では家計の負債比率が高止まりしている。

以上のような要因から、今年の80万~85万台までの回復の可能性は高いものの、農業を主体とする地方経済の本格回復を待たないと、国内社会経済は安定せず、タイの市場の実力値とされる90~100万台の回復まで数年を要すると筆者はみる。
次稿では、主要輸出市場の動向を踏まえ、生産回復の見通しについて触れる。

(次回、ArayZ2月号に続く)


執筆者:野村総合研究所タイ
シニアコンサルタント
山本 肇


上席コンサルタント
岡崎啓一

《業務内容》経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、 情報システム(IT)コンサルティング、産業向け IT システム(ソフ トウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

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