ArayZオリジナル特集

環インド洋経済圏のビジネス・ハブ拠点として注目 スリランカ投資環境レポート

arayz nov 2015

2014年の経済成長率7・4%と、インドネシアやフィリピンを上回るスピードで発展を遂げるスリランカは、人口約2000万人、親日的で穏やかな仏教国だ。
地理学的にも東南アジアからインド、中東、アフリカまでの中継地点に位置し、環インド洋経済圏の物流ハブ拠点として注目を集める。
スリランカのインフラ状況から進出法務まで、投資環境について現地取材してきた。

 

JETROコロンボ 小濱 和彦所長が解説! なぜ今、スリランカが熱い?

arayz nov 2015
日本貿易振興機構(JETRO)コロンボ
小濱所長

オセアニア、東南アジア、南西アジア、中東、東アフリカを含む環インド洋経済圏
の総人口は2010年時点で約22億人以上、2040年には約30 億人まで増加が見込まれている。この数字は世界人口の約35%を占めるものだ。
スリランカはインド、UAE、イラン、ケニア、タンザニア、南アフリカ、オーストラ
リア、そしてシンガポールやタイなど20ヵ国が加盟し、加盟国間の貿易などを活性化する環インド洋連合(IORA)にも名を連ねる。
環インド洋の中心に位置し、海上物流の要衝としての役割を担うスリランカへ、日系企業が進出した場合のメリットや投資環境の現状、展望について、日本貿易振興機構(JETRO)コロンボの小濱所長に解説いただいた。

中東・アフリカへの流れを鑑みたマルチな展開が狙える強み

スリランカの1人当たりGDPは2014年時点で約3600米ドルと、07年のタイとほぼ同値です。タイがこの7年で経験した経済の拡大、成長がスリランカの目標とするところであり、実際に同規模の成長が予想されています。
タイは自動車関連の日系企業が多く進出しているので、まず製造業が進出した場合についてお話したいと思います。
日産やヒュンダイがインド・チェンナイに組立工場を設けるなど、自動車産業の進路はアジア西方へ動いていますが、スリランカには及んでません。
南西アジアでは国内に裾野を持つインドの存在が巨大過ぎるため、国境を越えた分業体制が確立されず、アセアンにおけるベトナムやカンボジアから、タイの組立工場へ部品を調達するようなサプライチェーンができていません。島国であるスリランカは陸上物流で他国と繋がることがないため、その色合いは特に顕著です。しかしインドとの関係性では建国の歴史的経緯からパキスタンやバングラデシュに比べると良好で、海上物流での結びつきが強い点で優位に立っています。
インドの港は水深が浅いため、インド向けの貨物を積んだ大型コンテナ船はコロンボ港に入港し、貨物はフィーダー船と呼ばれる小型船に積み替えられ、ムンバイ港やチェンナイ港に運ばれます。インドにある組立工場は、部品を船便で仕入れる過程で必然的にコロンボ港を中継することになりますので、スリランカで作った、または倉庫で保管した物をインドへ輸出する場合、物流面でのロスは生じません。

arayz nov 2015
世界有数のコンテナ港であるコロンボ港は、水深のある天然の良港だ。

近年自動車メーカーは消費が拡大しているアフリカでの組み立てを視野に入れ始めている向きがあり、インド国内では調達できない、あるいは調達可能だが品質が問われる自動車部品の需要は、今後インドのみならず、中東や東アフリカといった環インド洋諸国で生まれてくる可能性があります。中堅・中小規模の自動車部品メーカーがインドへ進出した場合、当面はインド国内の需要に対応するにしても、将来的に東アフリカなど近隣の第三国で需要が生まれた時に、物流の観点から効率的に部品を供給できるのかという疑問が生まれます。その点、環インド洋地域での物流ハブであるコロンボ港を有するスリランカであれば、インドだけでなく中東、東アフリカまで広範囲にカバーすることが可能です。自動車メーカーの進出スピードは従来よりも早まっており、海上物流の要衝にあるスリランカ
には、特に中堅・中小企業がマルチに、多方面に輸出展開していける土壌があります。

arayz nov 2015
コロンボ・フォート地区にある世界貿易センター

進出日系企業の業種はさまざまキーワードは〝多品種・多方面〞

2015年8月時点で、スリランカ日本商工会には63社の民間企業が登録しています。
部会は製造、建設、商社・サービスの3つに分かれており、自社ブランドの最終製品を手
掛けるNORITAKE社を除き、製造部会に登録している企業のほとんどが部品製造やO E M 生産を請け負うBto Bの中堅・中小規模の輸出志向型企業です。特徴的なのは、これらの企業の多くが日本およびヨーロッパ向けの輸出拠点として20〜30年前から進出しているということと、海外の製造拠点はスリランカのみで、最近になって頭角を現したインドや中東向けのビジネスもそのままスリランカから対応されていることです。
輸出加工区(EPZ)の工業団地に入居している約10社の生産品は、光通信部品にネックレスのチェーン、スポーツ用手袋、アルミ鋳物などさまざまで、共通項があるとすれば「多品種生産・多方面輸出」です。人海戦術やオートメーション機械を使った大量生産品ではなく、手間のかかる物を、複数の取引先が求める仕様やモデルチェンジに合わせて製造、納品しています。

主要都市と輸出加工区(EPZ)所在地 MAP

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スリランカの行政区分は9州25県。緑色のボックスは日系企業入居のEPZ

スリランカ基礎情報

国名: スリランカ民主社会主義共和国
面積: 65,610 平方キロメートル(北海道の約0.8倍)
人口: 2,068万人(2014年央)
首都: スリジャヤワルダナプラコッテ(大統領府コロンボ)
言語:[ 公用語]シンハラ語・タミル語、[連結語]英語
宗教: 仏教徒70%、ヒンドゥー教徒20%、イスラム教徒9%、キリスト教徒11%
1人当たりGDP:3,520米ドル(2014 年)【出所 スリランカ統計局】
進出日系企業数:120社(2014年11月時点/ JETROコロンボ調べ)
在留邦人数:1,013名(2014年10月時点/大使館届出ベース)
略史:1948年 英連邦内の自治領セイロンとして独立
1972年 国名をスリランカ共和国に改称
1978年 議院内閣制から大統領制へ。現国名に改称
1983年 LTTE※との内戦本格化(~ 2009年に終結)
※反政府勢力タミル・イーラム解放のトラ

 

気になるコロンボの生活環境

衣食住
質を問わなければ基本的に生活に必要なものは手に入る。仏教国ということもあり、食のタブーが少なく、アルコールも調達しやすい。日本人経営の輸入食材店もある。住居は外国人向けマンションなどあるが、例えば単身者向け物件などの差別化はされていない。
医療・教育
医療レベルは外国人にとっては低い。教育に関しては日本人学校、インターナショナル校あり。教育熱心な国なので日本人との相性は良い。
治安
治安も時間と場所を選べば安心。夜でも女性が歩いて帰宅する光景もコロンボ市内ではよく見かける。スリなどの軽犯罪はあるが、命に影響を与えるような犯罪に外国人が巻き込まれるという話は少ない。道路の発展度合いが未熟にも関わらず自動車が増えているので、交通事故に気をつけたい。
“スリランカの発展度合いは先進アセアン諸国の中位という印象です”
(小濱所長)
arayz nov 2015
(左)街中の食堂ではカレーが基本
(右)まだ数店だが日本食レストランのレベルは高い(ただし、値段も高い)

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