特集 2017.12月号

賢慮という知のあり方を問う タイビジネス戦略

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2018年はASEAN加盟国内の関税の完全撤廃が予定されるなど、ターニングポイントとなる年だ。近年では、トヨタのベトナム生産撤退が検討されるなど、メーカーの戦略が大きく変わりつつある。刻々と変化する制度や競争環境に対して、何に対応するのか、そして何に対応しないのかを決めることはアジア新興国の経営者にとって重要な役割である。激動するアジアで着実な一歩先を歩むために必要なこととは。
今年も、チュラロンコン大学サシン経営管理大学院日本センターの藤岡資正所長に定点観測をお願いした。

EECは一つの選択であるということ

在タイの方は何度も耳にされていると思いますが、「東部経済回廊(EEC:Eastern Economic Corridor)」 とは、タイ政府がバンコク東部に位置するチャチュンサオ、チョンブリー、ラヨーンの3県を投資優遇する経済特区です。

東西経済回廊と南北経済回廊の中心に位置しており、タイの中長期的な経済成長戦略である「タイランド 4・0」の中核を担うプロジェクトとして10の重点産業(次世代自動車、航空関連、デジタル、先進的食品など)に様々な恩典を付与するもので注目を集めています。現在の日本企業のEECへの投資状況を2017年5月にジェトロと日本大使館が行った「EECに関する緊急アンケート」をもとにみてみましょう。

調査対象28社中(うち製造業関連18社)既に24社、86%の企業がEECエリアに進出しており、54%の企業が事業戦略上、当該エリアが重要であると答えていることから分かるように、タイの政策への直接的な反応としてではなく、事業戦略の一環として多くの企業がすでに同エリアで粛々と事業展開をしているというのが現実です。タイ政府から新しい政策が打ち出されるたびに事業の方向性を変えていたのでは毎年、政策発表に振り回されてしまうということになります。

政策への表面的な対応ではなく、人を育て、地域事業戦略を遂行するための組織体制を構築し、適切なマネジメント・コントロール・システムを導入することで、ヒトづくり、モノづくり、カネづくりのループを有機的に連結していく経営システムを築いていかなくてはなりません。その核となるのが、経営理念です。企業としてどうありたいのか、どのような未来を築きたいのかといったビジョンを描き、価値観を共有し、組織の要を強化していかなくてはなりません。

日本を代表する企業の経営陣の大規模な不正や従業員の自殺の問題など、かつての日本ブランドに対する「信頼」が揺らぎつつあることをしっかりと認識しなくてはなりません。昨年度末に本誌で述べた、「日本企業としての美徳」や「経営者の資質」に対する心配事が、現実なものとなってしまった残念な2017年でした。そこで、2018年に向けたメッセージとして、現在の経営に対する様々な「前提を問い直し」、「物事の本質を洞察する」ことの重要性を指摘したいと思います。

未来を照らす一つの光は過去であり、過去の歴史を学ぶことで未来の一部を照らすことができます。組織は人間一人では成し遂げることのできないことを可能とする大きな力を有していますが、要なき組織は、腰抜けとなり、乱れ、悪化し、いずれは崩壊してしまいます。①目先にとらわれず、長期的に物事をみる、②一面のみではなく、なるべく物事を多面的に観察する、③枝葉末節に走るのではなく、根本をとらえる、ということが大切なのではないでしょうか。

【東部経済回廊(EEC)】

・タイ東部経済回廊政策は、2016年7月にタイ政府が承認したプロジェクト。
・同計画では、1チョンブリー、2ラヨーン、3チャチュンサオの3県を経済特区として指定。
・当該地域の交通インフラ整備を進め、次世代ハイテク産業10業種の投資を促進する。
・同プロジェクトは、第12回国家経済社会計画および「タイランド4.0構想」の一環として、2017年―2021年の期間で推進される。

arayz dec tokushu
チュラロンコン大学 サシン経営管理大学院教員・同付属日本センター所長
藤岡 資正
英国オックスフォード大学サイード経営管理大学院博士課程修了 (経営哲学博士)。米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院客員研究員、名古屋商科大学院客員教授、早稲田大学経営大学院客員准教授、戦略コンサルティングファームCDI顧問、上場日系企業数社のアドバイザーを兼任。姫路市観光大使やアジアスマートシティサミット会議長。

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