ミャンマーの最新ビジネス法務

第6回 汚職に関する法制度

第6回 汚職に関する法制度

はじめに

NGOトランスペアレンシー・インターナショナルが発表した2016年腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)(※1) によると、ミャンマーは176位中136位に位置付けられています。
かかる順位が示しているとおり、ミャンマーにおいては賄賂が広く横行しており、裁判や許認可の取得の際に金銭を渡す事例が多く存在します。民政移管後、政府は汚職の撤廃に力を入れているのですが、その一環として、1948年に成立した『汚職行為防止法(The Suppression of Corruption Act)』に代わる法律、『汚職禁止法(The Anti Corruption Law)』が2013年9月17日より施行、2016年7月29日に一部改正する法律が成立しました。そこで、本稿においては、この汚職禁止法について解説します。

贈収賄に関する処罰対象行為を広範に規定

定義及び処罰対象行為

「贈収賄」とは、職務の不正利用、適法行為の不作為、利益供与、または法律に基づく権利の不法な禁止等を目的として、権限を有する者が自己、第三者、もしくは組織のため、利害関係者から、直接もしくは間接に、賄賂の提供、受領、取得、要求、申込、約束、もしくはその他の手段により賄賂を入手するための協議を意味します。
次に、「賄賂」とは、贈収賄を目的として、金銭、財物、贈物、サービス、もしくは娯楽その他の違法な利益を正当な対価を得ることなく、受領又は提供することと規定されています。
刑罰は主体によって異なる重さが規定されており、政治家が贈収賄の主体の場合には最も重く、次いで権限者、政治家及び権限者以外の者となります(※2)。

汚職禁止法の適用範囲

ミャンマー国内の行為、又はミャンマー国民およびミャンマーの永住者が、国内もしくは海外において行う行為が適用対象となる旨規定されています。したがって、ミャンマー国内の行為については、行為主体がミャンマー国民であるか外国人であるかにかかわらず処罰対象となります。他方、ミャンマー国外の行為については、ミャンマー国民およびミャンマーの永住者のみが処罰対象となります。

その他の法令

ミャンマーにおいては、贈収賄に関する一般的な法規制として、『刑法』と『汚職禁止法』が存在します。また、一定の職種や場面における贈収賄に関する特別法として、『防衛法』、『選挙法』等が存在します。
また、汚職禁止法上は贈収賄に関する例外は規定されていないものの、2016年4月に大統領府より各省庁に出された指令においては、以下の場合は例外として認められる旨規定されて います。
(a)2万5,000チャットを超えない贈物(1年間に団体又は個人が10万チャットを超えて贈物を受領してはならない)
(b)贈物が公的な役職によるものではなく、家族又は個人的関係に基づく場合(当該贈物は5条の禁止規定に影響を与えない)
(c)ティンジャン(ミャンマー正月)やクリスマスなどの特別な日における1年に1回の表敬としての贈物は10万チャットを超えてはならない

おわりに

以上のとおり、汚職禁止法は贈収賄に関する処罰対象行為を広範に規定しており、ミャンマーにおいても他の先進国と同様に、政府の職員等と接触する際には細心の注意が必要であり、社交的儀礼行為について、いかなる範囲の行為が除外さ れるかなどを慎重に見極める必要があるといえます。なお、ミャンマーにおける贈賄行為であっても、日本の不正競争防止法、英国の贈収賄法及び米国の海外腐敗行為防止法の適用があり得ることについても留意が必要です。

(※1)腐敗がどの程度存在していると認識されているかを示す指数であり、NGOトランスペアレンシー・インターナショナルが1995年に作成したものである。算出方法は毎年 変更されている。
(※2)権限のある公務員、外国の公務員、政治家、指定されたまたは管理および運営権を有する公務員、または公的組織ならびに代理組織の運営権を有する者を意味する(汚職禁止法3条(9)。


堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY国際法律事務所共同代表弁護士
東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。SAGA国際法律事務所(www.sagaasialaw.com)代表であり、2016年2月よりタイにTNY国際法律事務所(www.tny-legal.com)を設立した。タイ法及びミャンマー法関連の法律業務(契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。
問い合わせ先:yujit@tny-legal.com

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