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脱「コピー天国」に向けて 知的財産 最新情報(前編)

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「アジアのコピー天国」と言われてきたタイ。近年少しずつ街からコピー製品が姿を消しているようにも感じるが、現状はどうだろう。
今回は、タイの知的財産に関する最新情報を前編・後編(5月号)にわけて、ジェトロバンコク事務所知的財産部 石川氏とナラーワン氏が解説する。


△ナラーワン氏 石川氏

△出典:同代表部ホームページ(2017/12/14)、赤線部分参考

「コピー天国」汚名返上か

2017年12月、米国通商代表部(USTR)が、タイにおける知的財産保護及び権利行使環境の改善を認め、「スペシャル301条年次報告書※1」において、知的財産権の保護が不十分な「優先監視国(Priority Watch List)」の指定からタイを除外すると発表したことはご存じだろうか。

「アジアのコピー天国」と言われてきたタイでは、これまで国内に模倣品・海賊版※2が氾濫しており、知財保護の法整備、取り締まりが不十分と指摘され、今年まで11年連続で「優先監視国」に指定されていた。ところが、同代表部は来年の年次報告を待たずして、「タイで知的財産保護を改善する是正措置がとられたため、同国の指定を優先監視国から監視国(Watch List)に格上げする」と異例の声明を発表した。

※1 スペシャル301条年次報告書:米国通商法に基づき、知財保護が不十分な国や公正かつ公平な市場アクセスを認めない国を特定するもので、警戒レベルとして高い順に「優先国」、「優先監視国」そして「監視国」の3段階に設定されている。「優先国」に特定されると調査及び相手国との協議が開始され、協議不調の場合には対抗措置(制裁)への手続が進められる。米国独断ではあるものの、各国における「知的財産の保護水準」の役割を果たしている。アセアンにおいては、インドネシアが「優先監視国」、タイ、ベトナムが「監視国」となっている(2018年3月時点)。

※2 模倣品:商標権侵害品、意匠権侵害品などを意味し、最近では特許権を侵害する製品についても、技術模倣品として模倣品の範疇に含められている。
※海賊版:音楽、映画、コンピュータ・ソフトなどの著作権を侵害する商品を指す。模倣品、海賊版を総称して「知的財産権侵害品」、「不正商品」とも言う。


△タイ経済警察(ECD)による模倣品取り締まり、
出典:タイ商務省知的財産局(DIP)ホームページ

近年、アセアンで流通する模倣品の大半が中国製であり、タイ税関の報告によればタイでは模倣品の約90%が中国製と言われている。アセアン各国は、国内に模倣品・海賊版が多く流通していることを重大な課題と認識しており、特にタイでは、ここ1~2年の間に本格的な「知財保護、知財侵害への取り締まり強化」を図ってきた。具体的には、副首相をヘッドとした省庁横断的な「知的財産権侵害委員会」の設置(2016年9月)、コンピュータ犯罪法を改正し、オンライン上の知財権侵害への執行措置を導入(2017年5月)、商標法を改正し、再犯の厳罰化、音楽的要素からなる音商標の出願受付開始(2017年9月)、著名なマーケットを中心に大規模な模倣品取り締まり(2017年6月~現在)など、現在に至るまでに大規模な知財制度の改革がなされている。

タイ商務省の知的財産局は引き続き、映画、音楽、ソフトウェアの海賊版への対抗措置を強化する方針を示しており、特に経済・社会デジタル省と協力し、オンライン上で販売される商品や無料映画などについても厳しく監視することを明言している。

タイ政府によるこれら真摯な取り組みが、このたび米国通商代表部から評価されるに至った。

△ECDによる模倣品取り締まり、出典:DIPホームページ

中所得国の罠から脱却を目指す

このようなタイ政府による取り組みが本格的に実施された背景には、知的財産の保護・活用を強化することで、研究開発・イノベーションの促進、タイへの投資促進へと結び付けて、いわゆる「中所得国の罠」からの脱却を果たしたいというタイ政府の思惑があるためと考えられる。

「中所得国の罠」とは、自国経済が中所得国のレベルで停滞することで、先進国(高所得国)入りが中々できない状況をいう。また「中所得国」とは一般に一人当たりの国内総生産(GDP)が「3000ドル」から「1万ドル」程度の国を指すと言われている。

タイも中所得国化を果たしたが、安価な労働力に依存した産業構造のままでは、今後の競争力はいずれ低下し、経済成長が停滞する恐れがある。タイの持続的な成長のためには自国のイノベーションが必要とされ、人財育成や研究開発、インフラ整備に向けた取り組みが課題となっており、まさに成長への正念場を迎えているのである。

そこで本稿では、先に「知的財産とは何か」を説明し、タイでの知的財産の最新状況について紹介する。

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