特集 2016.08月号

タイ 統計データから読み解く 経済情勢

タイの小売業界事情に精通するガンタトーン氏が解説! タイの消費市場と物価・価値感覚を知る

arayz aug 2016

arayz aug 2016ガンタトーン・ワンナワス氏
埼玉大学工学部機械工学科卒業後、在京タイ王国大使館工業部に入館。2008年に帰国し、2009年に MEDIATOR CO., LTD.を起業。

タイの所得格差は縮小傾向にあるものの、依然として高所得層と低所得層(※)には7倍以上もの格差が存在する。また地域間格差も大きく、人口の3割を占めるバンコク首都圏と東部 でGRP(域内総生産)の6割を生み出 している。日系企業はタイの消費市場 をどう捉えるべきなのか。 ※高所得者層=上位20%、低所得者層=下位20%

バンコクと地方という2つの側面

約6500万人というタイの総人口の内、月収5万バーツ以上の「上流層」は約247万人(3.8%、約100万人の「富裕層」を含む)で、月収2万バーツ以上の 「中流層」は約1046万人(約16.1%)です。なお、日本で言う住民票に相当する制度がないため正確な数字は出ていませんが、バンコクの人口は約800万〜1000万人で、およそ半数程度が中流 層以上、残りの半数を占めるのは地方からの出稼ぎ労働者と言われています。 日本から進出する小売業や飲食業は主に中流層以上をターゲットにしていますので、タイの市場は思ったほど大きくはないということになります(図表)。

arayz aug 2016

他方、 自動車、バイク、インスタント・カップラーメ ン、調味料など、タイ全体をターゲットとした流通品で成功しているのは大手企業のみです。
地方の農家では、まず自分たちが食べるものを確保し、余りをお金に換えて必要なものを購入するための生活費に充てるという、昔ながらのスタイルが今も存在しています。それでも輸出できるほど農作物が収穫できますので、農家の人たちも必要以上に生産しようとは思っていないようです。タイには都会、経済都市としての首都「バンコク」と、昔ながらの農業生活を営む「地方」があり、毎月安定した収入で生計を立てる就業者と、毎月の安定収入はなく、ものを売って生計を立てる農家、この2つの側面があることを理解した うえで、進出時のターゲットをどこに定めるのか検討しなければなりません。

「モダントレード」と 「トラディショナルトレード」

中流層の増加に伴いデパート、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセ ンター、家電量販店といった「モダントレード(近代的小売業態)」の出店がバンコク 中心部から近郊で加速しています。代表的なモールグループやセントラルグループなどの大型商業施設では、建物の建設後は自前の商業スペースを除き、テナントへの「場所貸し業」に徹するのが特徴です。得意先のテナントがそれぞれに好きなスペースを確保していき、余った場所を新規テナントなどが埋めていきます。それゆえ、テナントの並びに統一性がなく、どこに行ってもある程度決まった店舗が入居している、という現象が起きています。
一方、地方では今もローカル市場や個人商店といった「トラディショナルトレード(伝統的小売業態)」が主流です。タイ国内の小売市場においてモダントレードはまだ30%程度のシェアしかなく、過半数を占めているのはトラディショナルトレード。しかし、タイのコンビニエンスストア最大手のセブンイレブンが市場の近くに出店を進めており、トラディショナルトレードからモダントレードへの移行は確実に進んでいます。

販売価格の構造と物価感

日本の商品をタイで輸入販売する場合は、次のような手順を踏んで価格が変わっていきます。まず、基本となる日本の卸価格に運賃・関税・VATが10〜40%が足されます。タイに入ってからは卸し・国内物流でさらに15〜20%、小売で35〜45%が上乗せされたものが売価となり、そこにVAT7%がさらに足されます。
実際に数字を当てはめてみましょう。 日本で卸価格500円(売価1000円)の雑貨に運賃・関税・VAT(35%) を足して675円。タイ国内に入ってか ら1バーツ=3・5円で換算して236バーツ。卸し・国内物流で20%を足して283バーツ。小売で45%を足して売 価は410バーツになり、そこにVAT7%が足されて最終的に価格は438バーツになります。
日本国内で1000円で売られていた ものが、タイで販売した場合、1533円になるということです。(酒類に関しては税法が異なるため、日本の売価の3倍程度とさらに高くなります)
この438バーツをタイ人はどのように捉えているのでしょうか。
私は日本とタイの物価と価値感覚を 「10倍の法則」で表すことができると思っています。
例えば、大学卒の初任給は日本でおよそ20万円、タイではおよそ2万バーツです。日本のビジネスパーソンがランチに食べるお弁当は500円、タイでは屋台で45バーツ。電車初乗り運賃は日本で140円(山手線)、タイでは15バーツ(BTS)。ペットボトルの水(500ml)は100円、タイでは10バーツなど、日本円とタイバーツの関係は、なにかと10倍程度の差で現せるものが多いのです。
この法則に則って、カップラーメンの値段を考察してみましょう。タイで一般的に売られているカップラーメンは13バーツ程度ですから、10倍の法則で考えて も130円と日本のものと価値感覚に大きな差はないと思われますが、日本で定価160円のカップラーメンをタイで輸入販売する場合、先ほどの計算に当てはめると販売価格は100バーツ近くになります。100バーツを10倍の法則で考えると1000円。果たして誰が1000円のカップラーメンを買うのかということです。
タイの小売市場は市場規模、ターゲット層、物価など、日本とは異なる側面が多くあります。為替レートの数字だけではわからない、タイ人の価値感覚まで感じ取ることができれば、タイ小売市場の性質への理解が深まるはずです。

MEDIATOR CO.,LTD.
Major Tower Thonglor Fl.10 141 Soi Thonglor 10,
Sukhumvit Road, Klongtan-Nua, Wattana, Bangkok, 10110
TEL : 02-392-3288
HP : www.mediator.co.th

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