ArayZオリジナル特集

社会課題からビジネス機会を創出する CSV事業戦略

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東南アジアをはじめとする新興国は、交通渋滞・事故、健康問題、急激な都市化、所得格差・貧困、自然災害、環境問題など多くの社会課題を抱えているが、解決意識や方法がなく、それら社会課題が国の経済損失に大きく影響している。
この解決策のひとつとして注目を集めているのが、社会的価値のあるソリューション提供をコア事業とし、企業が利益を上げることを目指す「Creating Shared Value(CSV)」だ。Corporate Social Responsibility( CSR)でも、社会貢献活動でもないCSVとは。
Deloitte Consulting Southeast Asiaの望月治成マネージャーに、社会課題を事業創出に転換するヒントを伺った。

ビジネス構造の変化に立ち向かうためには

現在の世界市場の特徴として、商品のライフサイクルが短期化していることが挙げられる。これは研究開発に莫大な資金や時間をかけても十分な回収が難しくなっていることを意味し、(たとえそれが新しい商品技術だったとしても)研究開発に伴うイノベーションの価値自体が低下しているとも捉えることができる。望月氏は、「技術で良い商品を作るだけではなく、持続的に収益化できる新しい事業機会の創出が、日本企業の次のステージとして求められています」と話す(図表1)。

新しい事業機会の創出を考える時、先進国市場と新興国市場ではそのアプローチ方法が異なる。先進国市場には、①世界的新技術が市場を牽引している、②国・産業が成熟していて構造変化が起こりにくい、③注目度の高い社会課題は人権問題や環境問題など経済損失が見えにくいテーマ―といった特徴があるため、技術革新、バリューチェーン再構築、エスノグラフィー調査(社会学的な生活者調査)といった方面からアプローチしていくことになる。

反対に新興国市場では、①先進国をフォローする企業・顧客ニーズが市場を牽引している、②国・産業が未成熟ゆえ構造変化が起こり易い、③致命的な社会課題が多大な経済損失をもたらしている―といった特徴があることから、社会課題、先読み、各政府の産業政策に沿ったアプローチがより有効となる。

社会課題から新規事業を生み出す

社会課題といっても、先進国と新興国では抱える社会課題も、そのアプローチ方法も異なってくる。水資源の不足、紛争・戦争、二酸化炭素排出、所得格差・貧困、健康、急激な都市化、交通渋滞・事故、高齢化・人口構造変化といった社会課題は、政府だけでは解決が困難な場合も多い。このような状況下で、近年、大手グローバル企業が取り組みを実践して注目を集めているのが〝Creating SharedValue(CSV)〟の概念に基づき、民間企業が中心となって社会課題にソリューションを提供する事業創出の方法だ。

「CSVはCorporateSocial Responsibility(CSR)活動の延長だと捉えられているケースがありますが、この二つの概念は考え方が根本的に異なります。CSRは社会貢献的な意味合いが強く、事業と切り離されて考えられることが多く、企業にとっては自社のブランド力や認知度を上げるための投資に近い位置付けとなります。これに対してCSVは、社会的価値を提供することを事業として考え、企業にとって利益を上げることが目的です。社会課題の解決を通してイノベーションを実現し、社会課題解決という『大義』を掲げ、その支持者を増やすことで大きな市場を構築していきます。

アメリカの経済学者、マイケル・ポーター氏は『CSVは経済的に成功するための新しい方法である。それは企業活動の周辺ではなく、中心に位置付づけられる』と述べています。たとえ後発になったとしても社会課題は深掘できるものであり、また一企業だけで完結できるものでもありません。また、2~3年で解決できるものでもなく、課題がゼロになることもないので事業機会は無数に存在していると言えます」。

さらに望月氏は、社会課題にアプローチしていくには、今までの事業戦略の練り方とは異なる着眼点が必要だと説明する。
「従来の事業戦略では、SWOT分析(※)でいう〝S〟から、つまり自社の技術や顧客基盤、ブランドなどから考えていくのがパターンでしたが、CSVではまず〝O〟から、つまり、どのような社会課題があるのか、その課題解決にはどんな強みが必要なのかという順に考えます。たとえ現時点で自社に必要な強みがなかったとしても、新たに〝S〟を構築すれば良いと考えることが重要です。これまで企業は、自らが良いと判断した商品を自ら訴求していましたが、CSV戦略は社会全体が良いと判断した商品を、さまざまなステークホルダーを巻き込んで訴求していき、社会全体が解決を求める課題を事業機会と捉えるものです。NGOや国際機関などのステークホルダーを巻き込むことで、事業実施上の協力を受けられる可能性もあります」(図表2)。
※SWOT分析=「Strength:自社の強み」、「Weakness:自社の弱みや課題」、「Opportunity:外部にある機会」、「Threat:外部にある脅威」の4つの軸から戦略を分析するフレームワーク

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