ミャンマーの最新ビジネス法務

第10回ミャンマーの労働組合法と実務

ミャンマーの労働組合法と実務


堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY国際法律事務所共同代表弁護士

東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。SAGA国際法律事務所(www.sagaasialaw.com)代表であり、2016年2月よりタイにTNY国際法律事務所(www.tny-legal.com)を設立した。タイ法及びミャンマー法関連の法律業務(契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

問い合わせ先:yujit@tny-legal.com

はじめに

近時、ミャンマーにおいても工業団地に所在する工場等において賃金の増額等を求めるストライキが増加している。背景としては、物価の上昇に比して賃金の増加率が低いことやストライキを扇動する活動家等の存在が挙げられる。このようなストライキに関する法律として、労働組合法が存在する。同法は、1962年以降結成が禁止されていた労働組合の結成について、一定の条件を満たした場合には認め、ストライキの規制等について規定している。

労働組合の結成

労働組合に関して、複数の階層の労働組合が予定されており、単位労働組合、タウンシップの労働組合、地域または州の労働組合、労働連盟、ミャンマー労働連合が存在する。基本となる単位労働組合の組成については、30人以上の労働者によって結成する必要があり、かつ、関連する事業または活動の単位の10%以上の労働者からの推挙が必要となる。労働者が30人未満の事業または活動の場合、同じ性質の他の事業または活動の単位と共に結成することができる。単位は、工場、事業場、製造業等の職業である。労働組合は登録を強制されている。

労働組合は、労働者が解雇された場合、解雇理由が労働組合員であること等を理由とすると信ずるに足る理由がある場合、使用者に再雇用を求めることができる。また、労使間の紛争や政府に対する不服申し立ての場合等に代表者を参加させる権利および団体交渉権を有する。

実務上の留意点


1.組合員への対応

使用者は、日本と同様に、労働者が労働組合に加入していること、あるいは、本法に従って、組合活動を行い、ストライキに参加したことを理由として労働者を解雇してはならない。

また、使用者は、財政的手段またはその他の手段による支配または統制の下に、労働組合の設立または運営を促進する意図を持って、いかなる行為も行ってはならない。

2.ストライキへの対応
使用者はストライキが労働組合法に従った適法なものであるかを慎重に見極めた上で適切に対応する必要がある。

すなわち、適法性の主な判断要素として、①当該労働組合が労働組合法に基づき登録された労働組合であるか(労働組合の適法性)、②ストライキを行うための手続が適切であるか(適切な事前通知が行われているか等)③ストライキが賃金、福利厚生および労働時間等の労働条件または労働者の職務利益に関係するその他の事項との関連を有するか(目的の正当性)等が挙げられる。

違法なストライキに対しては、法律に違反しており、そのようなストライキに加担した労働者は罰則が科されるため、労働組合にその旨を伝え、冷静な対応を求め、管轄労働事務所に対しても協力を求める必要がある。もっとも、労働事務所職員は原則として労働者よりであり、かつ、労働関連法を理解していないことが多い。最終的な手段としては、労働紛争解決法に基づく調停機関等を利用することとなる。これまでの経験上、第一審に相当する機関においては不当な判断が多いものの、上の機関に行くほど公正な判断がなされる可能性が高い。

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