カシコン銀行経済レポート

【連載】カシコン銀行によるタイ経済・月間レポート 2014年11月号

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タイ経済・月間レポート(2014年11月号)

2014年9月のタイ経済情報

タイ中央銀行が発表した2014年9月の重要な経済指標によると、多くの経済部門で前月から上向きました。民間消費は拡大し、政府支出も、特に投資支出が年度末を前にした予算執行の加速によって増加しました。また、輸出はマイナス成長からプラス成長に転じました。しかしながら、工業生産は依然として低調な状態が続いています。全体的なタイ経済の回復ペースは依然として緩やかになっています。

タイ経済の回復ペースは依然として緩やか

  • 2014年9月のタイ経済は前月から改善したものの、回復ペースは依然として緩やかになっています。民間消費や政府支出の拡大などがみられた半面、工業生産と民間投資が引き続き低調でした。
  • 輸出はほぼすべての商品で上向いたものの、全体としては脆弱性が残っています。海外需要の回復が遅れているほか、タイはハイテク製品の生産技術面でしかるべき対応ができていないという制約を抱えています。一方、観光業は、政情への懸念が薄れたことで中国をはじめとするアジアからの旅行者数が回復しています。しかしながら、依然として多くの国で自国民に対しタイへの渡航に注意を促しており、全体では通常の旅行者数を下回っています。
  • 2013年に日本からASEAN地域に流入した海外直接投資(FDI)の金額は236億米ドルという歴史的な金額に達しました2015年末のASEAN経済共同体(AEC)の発足がもたらす恩恵もASEAN向け投資の支援材料の一つになっていると考えられます。
  • 近年、日本企業の経営者は、AECの枠組みに基づく域内の共同生産拠点化から得られる恩恵に依拠して、タイ+1戦略を採用しています。タイ+1戦略とは、タイを高度な労働技能を必要とする製品の組立拠点および地域の研究開発拠点として利用する一方で、労働集約型で複雑でない技術しか必要としない部品の生産拠点は近隣諸国に移転し、近隣諸国で製造された部品をタイに輸入して、完成品に組み立てて輸出するという戦略です。

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9月の民間消費は8月の前年同月比0.8%減から同1.2%増となり、マイナス成長からプラス成長に転じました。食品・飲料などの非耐久財の支出が増加に転じたことにより拡大しました。また、非農業部門の家計所得と信頼感が良好な水準にあることも一因となりました。しかしながら、耐久財の支出はまだ回復していません。家計債務が支出を圧迫し、地方の家計の購買力は農産物価格の下落による影響を受けています。
一方、民間投資は前年同月比5.0%減となり、8月の同5.6%減に引き続きマイナス成長となりました。需要全体が正常なレベルを下回っていることが理由で、特に物品輸出の回復は、世界経済の先行き不透明という追加のリスク材料を抱えています。建設投資、機械・設備投資とも前月から横ばいでした。
また、多くの工業で生産能力は十分な水準にあり、生産増強のための投資は低位にとどまっています。すなわち、生産増強に対する投資は少なく、将来的な生産性や効率性の向上を目的とした投資が大半を占めました。
9月の輸出は、前年同月比2.2%増の約186億米ドルとなりました。ほぼすべての商品で上向きました。しかしながら、全体としては脆弱性が残っています。海外需要の回復が遅れているほか、タイはハイテク製品の生産技術面でしかるべき対応ができていないという制約を抱えています。
商務省が発表した2014年10月の貿易統計によると、タイの輸出額(201億6400万米ドル)は前年同月と比べ、9月の3.19%増から3.97%増に引き続き上昇しました。その結果、1〜10月の輸出は前年同期比0.36%減となり、やや縮小しました。10月のタイ輸出を品目別に見ると、農産物・加工品の総輸出額は9月の前年同月比4.0%増から同1.4%増加し、5ヵ月連続の増加となりました。また、主要工業製品の総輸出額は、9月の前年同月比3.0%増から同5.4%増となり、2ヵ月連続で上昇しました。米国、日本、ユーロ圏向けの輸出は前月に引き続き上昇傾向にあります。
しかし、中国向けの輸出は引続き減少しました。
工業生産に関しては、8月の前年同月比2.7%減から同3.9%減となりました。ハードディスク駆動装置(HDD)の生産を除いた工業製品の生産は大半が増加しています。
例えば、食品・飲料、エアコン、繊維・衣類の生産が国内支出の回復に支えられ増加しています。一方、自動車とハードディスク駆動装置は、それぞれ17.0%、8.8%落ち込みました。
農家所得は引き続き減少しました。中国の在庫増とマレーシア、日本での需要軟化でゴム価格が下落したほか、政府の在庫米放出でコメ価格も下がりました。農業生産は、雨期後半の水不足を背景にゴムやトウモロコシが縮小しました。
観光業は、政情への懸念が薄れたことで中国をはじめとするアジアからの旅行者数が回復しています。
しかしながら、依然として多くの国で自国民に対しタイへの渡航に注意を促しており、全体では通常の旅行者数を下回っています。このため、9月にタイを訪れた外国人観光客数は前月の208万人から186万人に減少しました。

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商務省が発表した2014年10月のヘッドライン・インフレ率は、9月の前年同月比1.75%増から同1.48%増となり、5ヵ月連続で低下しました。世界市場での燃料価格の下落に伴って、国内のエネルギー価格が低下したことや、気候の変化によりキャベツやトマトなどの野菜、鶏卵、豚肉などの一部の生鮮食品で価格が下がったことが要因です。今年1〜10月のヘッドライン・インフレの上昇率は前年同期比2.08%となりました。
項目別にみると、食品・飲料は全体で3.25%となり3ヵ月連続で上昇ペースが鈍化しました。このうち、果物・野菜はマイナス2.65%、卵・乳製品がマイナス1.52%と前年同月から下落しました。非食品はタバコ・酒が2.83%で上昇率が最大でした。
一方、振れ幅の大きい生鮮食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は、前年同月比1.67%増となり前月の同1.73%増をやや下回りました。
バーツ相場の変動については、タイバーツは、2014年10月末には1ドル=32.61バーツの終値をつけ、9月末の終値1ドル=32.40バーツから軟化しました。米国の経済が引き続き改善していることにより、米国連邦準備制度理事会(FRB)は量的金融緩和(quantitative easing : QE)による金融機関等からの資産追加購入を停止することを発表しました。このことにより、米ドルが上昇し、タイバーツが軟化しました。

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