Asian Identity Co., Ltd

タイ人社員の「地頭力」を鍛える

常に指示待ちの姿勢で、自ら考えることをしない部下に悩んだことはありませんか?
著書「地頭力を鍛える」(東洋経済新報社)で知られる細谷 功氏と、タイ・バンコクを拠点に組織人事コンサルティング会社Asian Identityを運営する中村勝裕氏に、企画業務や管理職に就くビジネスパーソンに必要な論理的思考力について、議論を交わしていただきました。

中村勝裕
愛知県出身。上智大学外国語学部を卒業後、ネスレ日本入社。その後、コンサルティング会社リンクアドモチベーション(東証一部上場)において組織変革コンサルタントとして数多くのプロジェクトに従事した後、GLOBIS ASIA PASIFIC において東南アジア各地における企業人材育成や、日本人の海外研修の企画や運営を担当。2014年よりタイに移住し、タイ人とともにAsian Identity Co. Ltdを設立。日本人とタイ人の混成チームで、日系企業の人材開発、組織活性化を支援するコンサルティングを行っている。

細谷 功
神奈川県出身。東京大学工学部を卒業後、株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ等の米仏日系コンサルティング会社にてコンサルティングに従事。専門領域は、製品開発や営業等の戦略策定や業務/IT改革。併せて問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して実施している。著書に『地頭力を鍛える』『アナロジー思考』(以上東洋経済新報社)、『会社の老化は止められない』(亜紀書房)等。2012年より、バンコクの泰日工業大学にて非常勤講師を務める。

ビジネスの答えは
ネット検索できない

中村 私がタイで企業の組織人事支援を目的にAsian Identityを設立した頃、細谷さんは既に泰日工業大学(以下、TNI)でクラスをお持ちで、若手人材の育成に注力されていました。

細谷 3年ほど前にディスカッションさせていただいたのが縁で、日本とタイのビジネスパーソン向け講座をご一緒するようになったんですよね。

中村 はい。弊社では細谷さんの「地頭力」講座のプログラムをベースに開発した、【地頭・ロジカルシンキング】講座を開催させていただいています。普段、お客様先で多く伺うのが「タイ人部下に『考える力』が足りない」というお悩みです。細谷さんはTNIでタイ人学生向けに、地頭力を鍛えるクラスを開いていらっしゃる。

細谷 そうです。TNIではIT学部の3、4年生向けにITコンサルティングとMBAのクラスを受け持ち、思考力とともに日本のビジネス等について講義を行っています。地頭力の本質は、「結論から」「全体から」「単純に」考える3つの思考力です。この考え方について講義したのち、ビジネスでどう使うのかについて生徒に発表してもらう形式をとっています。

中村 手応えはいかがですか?

細谷 これは国籍というよりも世代の問題かもしれませんが、タイの学生は、例えば「タイ国内にセブンイレブンは全部で何店舗あると思うか」という質問を投げると、すぐにスマートフォンで調べて答えを出してきます。良くも悪くも、効率的な面があるのかなという印象です。もちろん情報収集のツールを知っていることは良いことなのですが、答えをどう導き出すかというプロセスも、思考力を鍛えるためには大事な要素ですので、クラスではプレゼンテーションを取り入れるなど、地頭力を使う実践をさせています。

中村 先ほどの質問に対してなら、「タイには1都76県あるから、1県あたり××店舗あるとして…」と意識的に1~2分かけて考える行為ができるかどうか、考える姿勢があるかどうかがポイントになりますよね。全体から考えるフレームワーク思考力が鍛えられると、全体が見えるようになるので、必要なものだけを捉えて効率良く業務をこなせるようになる。細谷さんのプログラムは、こうした方法で地頭力を鍛え、若手社員を開発できるのが特徴だと思っています。

なぜ思考力が
身につかない?

細谷 ちょっと皮肉な考えかもしれませんが、日系企業で働くタイ人のなかには「結局、日本人が決めるんだから考えても無駄だ」と思っている人もいるのかもしれません。答えを導き出す作業を必要だと思えないから、考えることを端折ってしまっている可能性も考えられます。

中村 上司から指示を受けて業務をこなす立場の人ならそれで良いのかもしれませんが、課題を解決する立場にある、管理職や企画業務に携わる人にはやはり思考力が必要です。企業は答えがない中で起きていることに対して、自ら企画や提案ができるように人材を育成しならなければいけなくて、このことをタイ人社員に伝えるのに苦労している日系企業が多いように思います。

一方で育成する側の人にも忍耐力が必要で、結局あきらめて、タイ人に任せるべき作業を日本人がしてしまっていないでしょうか。日本では上司が部下に自力で作らせた資料に赤字を入れて教えたりする流れが普通にありますが、そんなことをタイでするとまわりくどいと思われてしまったり、彼らのプライドを傷つけてしまったり、上司の指示出しの方法が悪いと文句を言われかねない…。まず、「なぜ考えてほしいのか」を伝えることが大切だと思います。

細谷 日本人が当たり前だと思っていることが、タイ人にとってもそうとは限りませんから、背景や前提が抜けた状態で話してしまうと伝わらない恐れがありますよね。IT用語とか、世界共通の単語でやり取りするならまだ分かり合えるのですが、考える力の話になると「問題と課題の違い」のような概念的な話ができなくてはならなくて、日本人とタイ人で議論するのは容易ではありません。

中村 言語を含むコンテキストの壁は大きいため、2018年6月に開催予定の【地頭・ロジカルシンキング】講座もタイ人講師がタイ人向けに、タイ語で講義を行っています。タイ人の性格に適した体験型の講座を通じて「考える」プロセスから気づきを得ることがゴールですが、地頭力のトレーニングには仕事の場での実践が重要になります。上司と部下で取り組んでいただくことで、より高い効果が得られるはずです。

(ArayZ4月号に続く)

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