【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

タイ自動車産業の国際的にユニークな位置づけ

タイ自動車産業の国際的にユニークな位置づけ~
「新興国向け輸出拠点モデル」(後編)

(ArayZ1月号、前編からの続き)

特に、2000年代半ばから2010年代初頭にかけて資源価格が高騰したことで新興市場が拡大し、タイの1トンピックアップ輸出は飛躍的に伸びた。新興国向けに主に輸出されるピックアップは価格よりも商用としての性能、信頼性が重視され、小型乗用車に比べると収益性が高い。生産・輸出の拡大により日系及び地場系を問わずTier 1、Tier 2、更にその下請けまでサプライチェーンが広がったことが、タイの自動車産業の基盤強化に結びついた。

ピックアップで培った生産基盤を活用して、2010年代以降、タイはエコカーをはじめとする小型乗用車の域内向けの輸出も始めた。更に近年では、SUVの世界的なブームを反映し、ピックアップのプラットホームベースのSUVもタイの主力輸出製品となっている。

曲がり角にある「新興市場向け輸出志向型」成長

ただし、2014~15年以降資源価格が下落に転じたことで、輸出は伸び悩み、「新興市場向け輸出志向型」の成長は曲がり角を迎えている。足元では、タイの稼働率は7割程度まで低下し、収益低下に直結しているが、労働力不足を起因とする労働賃金の高騰に加えて、近年のバーツ為替高が収益性の改善の足を引っ張る。また、中長期的には昨今の環境規制の強化により、ピックアップや派生SUVのような燃費の悪い車への風当たりは強まることが懸念される。

更に、インドネシアをはじめとする域内生産国や、EVの売込みを強める中国、「メイド イン インディア」で製造業輸出に力を入れるインド等の域外国との競争が激化することは必至だ。従って、タイは「新興市場向け輸出志向型モデル」の成功に甘んじることなく、FTA締結による新市場開拓、コスト高騰に対応した生産性の向上のための人材育成や設備投資支援等政策的な手を打っていくことが欠かせない。

他方で、タイで展開する日系自動車関連メーカーは、将来的に高まる環境規制に対応しながら地域での製品の優位性を維持するためには、より計画的なxEV(電動車)、低燃費技術の現地化への取り組みが必要となる。一ヵ国のみでは採算性が厳しいために、各国政府の政策の足並みがそろうように働きかけながら、域内での新しい分業を構築していくこと。また、グローバルな競争力をもつために、域内・周辺国のみならず、材料コストの安いインド・中国等のサプライヤーも活用する広域戦略も合わせて追求していくことも求められるだろう。

(ArayZ3月号に続く)

執筆者:野村総合研究所タイ


マネージング・ダイレクター
岡崎啓一


シニアコンサルタント
山本 肇

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