【連載第8回】千代田中央法律事務所 タイの労働法制 ~労使間の交渉~

chiyodachuo

今回は労働組合の設立手続概観から、労使間の交渉がどのようなプロセスで進んでいくかについて解説する。

タイにおいては、労働者の権利意識が芽生えだして日が浅いこともあり、労使交渉の歴史
は長くない。そのため、労使交渉の方法について、労働関係法が事細かに法定している。
そこで、まず多くの場合、労働者側の交渉の主体となる労働組合の設立手続について概観
した後に、労使交渉のプロセスについて解説することとする。
なお、労働関係法においては、公共の福祉にかかわる業務など、一定の業務を行う企業について特別の規定が置かれているが、この点についての記述は割愛する。

1.労働組合の設立

労働組合とは、労働者を構成員とする、雇用条件についての利益の追求、会社と労働者の間、あるいは労働者間の良好な関係を推進素することを目的とする団体である。
労働組合は、登記によって法人格を得る。登記の申請は、労働者10名以上が発起人とな
り、労働組合規則と共に申請書を登記官に提出する方法によって行う。労働組合規則にお
いては、下記事項が必要的記載事項となる。
(1)「労働組合」の文言を用いた名称
(2)設立目的
(3)事務所所在地
(4)組合加入方法、組合員の脱退の方法
(5)加入費、会費の額およびその支払方法
(6)組合員の権利義務に関する事項
(7)金銭その他財産の処分、保存、会計処理、会計監査に関する事項
(8)雇用条件に関する合意事項承認手続についての事項
(9)総会に関する事項
(10)委員会に関する事項

2.要求書の提出

労働者側からの要求は、全労働者の15%以上の代表者、または全労働者の20%以上が
参加する労働組合から、要求書という形で会社に対して提示されなければならない。労働
組合から要求書の提出があった場合、会社側にとって、当該労働組合に、全労働者の20%以上が参加しているのか否かが必ずしも明らかでない場合がある。その場合、会社は、労働調停官に対して当該事項の調査と証明を求めることができる。
労働者側からの要求事項としては、賃金の引き上げ、または福利厚生の充実のいずれかであることがほとんどである。

3.交渉の開始

交渉は、要求書が相手方に到達してから3日以内に開始する必要がある。通常交渉参加代理人を各陣営で選任した上で交渉に臨むわけだが、交渉参加代理人の人数は、各陣営7名
以内とされている。但し、交渉参加代理人の顧問として、各自2名以内を選任することが可能である。なお、顧問として適格を有するためには、労働省の定める資格を有していること、労働局長によって登記されていることが必要である。
各陣営は、交渉参加代理人および顧問の氏名を相手方に通知しなければならない。

4.交渉の結果

交渉の結果、合意に至った場合、合意内容を書面に記した上で、各陣営の交渉参加代理人がこれに署名する必要がある。また、会社は、合意後3日以内に当該合意事項を要求事項
に関係する労働者の勤務場所に掲示する方法により、告示しなければならない。掲示は30日間以上行う必要がある。
交渉の結果合意に至らなかった場合、要求書の到達から3日以内に交渉を開始できない場
合(以下、併せて「合意不成立」という)、労働紛争が生じたものとみなされる。要求書提出側は、合意不成立の時から24時間以内に労働紛争事項調停員に対して、その旨書面で通知する必要がある。

5.調停

調停員は、上記通知を受けて、調停手続を実施することになる。合意不成立となった労働紛争について、調停がなされる期間は5日以内である。同期間内に合意に至った場合、上記「3.」と同様、合意書面作成、告示の手続がとられる必要がある。調停に付されたにもかかわらず合意に至らなかった場合、両陣営は、ストライキ、ロックアウトといった実力行使に移るほか、労働紛争仲裁手続を利用することができる。

6.仲裁

労働紛争仲裁手続を利用する上では、両陣営の合意の下(この要件により、仲裁手続が実際に利用されることは多くない)、1名もしくは複数の労働紛争事項仲裁人が選任されなければならない。選任された労働紛争事項仲裁人は、選任の事実を了知してから7日以内に、両陣営に対して、審議の日時、場所、裁定の予定日を通知することになる。
審議の期日においては、両陣営に、要求事項の必要性合理性、あるいは要求事項を受け入
れられない理由について陳述し、証拠を提出する機会が与えられる。
両陣営による陳述、証拠提出が終了すると、仲裁人が裁定事項を記した裁定書を作成し、裁定から3日以内に両陣営の交渉代理人に対して送付することになる。当該裁定の内容は、合意に代わるものとして両陣営を拘束する。会社は、裁定書の写しを、要求事項に関係する労働者の勤務場所に掲示する方法により、告示しなければならない。また、仲裁人は、裁定書を労働局長に対して登記することになる。

7.ストライキ、ロックアウト

労働者側のストライキ、会社側のロックアウトは、労働争議に係る各々の権利であるが、行使できる場合が、下記の一定の場合に限定されている。

(1)要求事項に対する交渉の結果合意不成立となり、調停が行われたにもかかわらず合
意に至らない場合。

(2)要求事項に対する交渉または調停の結果、合意に至ったものの、合意事項が当事者によって遵守されない場合。

(3)労働紛争が仲裁手続に付され、裁定がなされたにもかかわらず、裁定事項が当事者によって遵守されない場合。

ストライキ、ロックアウトを実行するに当たっては、24時間以上前までに相手方に対して予告する必要がある。

【共著:平井遼介弁護士】

 

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佐藤聖喜 代表弁護士

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平井遼介 弁護士

千代田中央法律事務所・バンコクオフィス
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South Sathorn Rd, Yannawa,
Sathorn, Bangkok 10120
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http://www.chiyodachuo-jurist.com

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