ArayZオリジナル特集

コーチングとは

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

「日本人は現地化、現地化というけど、日本人が結局、全部決めてしまう」「3年ほどで帰国してしまう日本人からは、本気さが伝わってこない」――日本人抜きの場では、日系企業に勤めるタイ人からこのような本音が聞こえてきます。
 現地化を進展させる必要性を理解していても、様々な障害が横たわります。そこで一方向ではなく、双方向(上司と部下)でアイデアを出し合い、検討し、それを行動に移すためのアイデアも、双方向で生み出すコーチングを導入する企業が増えています。
 「コーチングとはどのようなものなのか」「具体的に何がもたらされるのか」――コーチングによる組織開発をグローバルに展開するコーチ・エィのタイ現地法人コーチ・エィ(タイランド)の青木美知子マネージングダイレクターに事例などを交えて解説していただいた。

はじめに

これまでは、人の能力を開発する役割は、先生や先輩、上司といった経験や知識の多い人、能力の高い人が引き受けるという一般認識がありました。

しかし、価値観が多様化している今、これまでのように一律に情報や知識・スキルを身につけさせることで、人の能力を開発するのは難しい時代になっています。

変化が激しく、そのスピードも早い現代においては、一人ひとりがクリエイティブに考え、行動することが求められています。それとともに、今の不確実性が高い社会では、正しいやり方であるという確信がないままに、動きながら軌道修正していく柔軟性も必要となります。

このように、変化への適応力やイノベーション、一人ひとりの自発性と能力開発が求められる中、注目されるのが「コーチング」です。

「コーチングとはどのようなものなのか」「具体的に何がもたらされるのか」を、「定義」「特徴」「進め方」「実例」などを通じて探ります。

コーチングとはリーダー開発の手法

「(経営者が)コーチをつける」と「(部下育成手法として上司が部下を)コーチできるようになる」がある

コーチングの概念はもともと米国で誕生しました。今では世界中で社長がコーチをつける企業が増えています。これを「エグゼクティブコーチ」と呼びます。

欧米の企業経営者は自らにコーチを付けるだけでなく、それを公言している例が少なくありません。その中には世界有数の大手IT企業や急成長中のベンチャー企業のCEOも含まれます。

彼らがコーチをつける大きな理由として、ビジネス環境が日増しに複雑になり、今や答えがよく分からない時代となってきた、ということがあります。以前であれば成功企業におけるKFS(キー・ファクター・フォー・サクセス=経営において抑えておくべきポイント)が成立していました。しかし、今の時代というのは全く逆のことが起こります。成功のジレンマという言葉がありますが、過去に成功した企業を真似して学んでみてもうまくいかない。そういう意味では、経営者の方々にとっては、どうしたらいいか分からない問題が山積みです。

しかし経営者がコーチをつけるとき、コーチは基本的には問いかけるのみです。コーチが問いかけるのは、その答えは社長ご自身の中にあるのではないですかということです。
誰よりもその会社に責任感を持ち、長くその事業をやってきて、業界のこともよく分かり、誰よりも思いを深く持っている方は、社長ご自身ではないですか、その社長ご自身の中に答えがあるのではないですか、と。

「ティーチング」と「コーチング」の違い(※1)

一方、部下の育成手法として「上司が部下をコーチできるようになる」という領域もあります。
部下の育成手法ですから、当然、教えること(ティーチング)も大切で、マネジメントの中にこれらをバランスよく効果的に組み合わせていくことがより求められてきています。

ティーチングとは

ティーチングは学校教育から始まり、組織における人材育成、あるいは生涯教育など、「教育=ティーチング」といってもよいほど一般的に使われている、私たちにとってなじみのある手法です。

平たく言えばティーチングとは、知っている人が知らない人に教える、できる人ができない人に教える指導法であり、「自分が持っている知識、技術、経験などを相手に伝えること」と定義することができます。この性質から、基本的にコミュニケーションスタイルは、一方通行となります。

コーチングとは

一方、コーチングでは基本的に「教える」「アドバイスする」ことはせず、代わりに「問いかけて聞く」という対話を通して、相手自身から様々な考え方や行動の選択肢を引き出していきます。

すなわち、コーチングは次のように定義できます。

「問いかけて聞くことを中心とした“双方向なコミュニケーション”を通して、相手がアイディアや選択肢に自ら気づき、自発的な行動を起こすことを促す手法」です。

どんなときにコーチング、ティーチングするのか?

コーチングとティーチングのどちらを適用するかは、相手に求められるタスクの重要度やその人が持っている能力(スキル)によって異なります。
その目安となるのが、マトリクスです(図1)。

〈重要度・難易度とスキルの高低の四象限マトリクス〉

ケーススタディを交え、具体的に
検討してみましょう。

ケース①A領域
営業部メンバーのOさんがある顧客から、「当社にカスタマイズした詳細な資料を至急持参して欲しい」という依頼を受けました。この顧客とは大口の契約を見込んでおり、重要な案件です。しかし、実はOさん、ワードやエクセルを扱うのは大の苦手で、一向に手をつけられないと上司であるあなたに相談にきました。

さて、あなたが上司なら、どのような関わりをしますか?(もちろん、資料作成が得意なメンバーの協力を得るというような選択肢もありますが、今回は、あくまでもOさん本人が資料作成を行うことが求められる場合という設定で考えてみましょう)。

このケースは、先ほどのマトリクスで見ると、重要度・難易度の高い業務をスキルの低い人がする「A領域」になります。ゆえに、「ティーチング」が最も適する領域です。Oさんは現状、ワードやエクセルを十分に使えないわけですから、問いかけてみたところで、それ以上は引き出せません。基本的には手取り足取り教えてしまうのが効率的です。

では、次のケースはどうでしょうか?

ケース②B領域
先ほどのOさん、別件で、社外での重要なプレゼンテーションを行うことになりました。そのプレゼンテーション内容について、上司であるあなたにOさんが相談に来ました。Oさんは仕事の知識や経験も豊か、かつ、プレゼンテーション能力も高い人材です。

さて、この場合、あなたが上司ならどう関わりますか?

このケースは、スキルの高い人が、重要度・難易度の高い仕事をするという「B領域」に当てはまります。場合にもよりますが、基本的には「コーチング」が最も適する領域です。

「どのようなプレゼンにしたいのか?」
「プレゼンを成功させるポイントは何か?」
「一番に伝えたいことは何か?」
などと問いかけることで、成功イメージを具体化するといった関わりが効果的です。

もちろん、Oさんにない視点や経験が役に立ちそうな場合、また、Oさんもそれを求める場合は、それらを共有したり、教える、ということも合わせて行ってもよいでしょう(この時、すべてをあなたが直接教える以外に、最適な人物を紹介するのもひとつです)。しかし、基本的にはコーチングのスタンスで向き合うのが効果的なケースと言えます。

残り2つの領域についてもみておきましょう。

C領域のように、重要度・難易度が低いことをスキルが高い人が行う場合、一般的には一任してよい領域と言えます。余力がある場合や、新たな取り組みやさらなるバージョンアップをしたい場合などは、コーチングを取り入れるのもいいでしょう。

一方、D領域のように、重要度・難易度もスキルも低い場合なら、本人の自発性を促進し、自ら考え、自ら行動する力を養う目的で、コーチングを用いることも検討の価値があるでしょう。ただし、他の案件の優先順位や求められるスピードによっては、ティーチングを選んでもいい領域でしょう。

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

gototop