【連載第47回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

シーポム社編(3)
「派遣という形」

前回までのあらすじ)
〜シーポム社の経理の要となっているメイさんの辞意と決算対応が目前の状況になって業務が滞っていたことから始まった今回の案件。早速現場に入ってメイさんとも業務切り分けをした上で、まずは連結決算対応の部分から始めることになったのだが…〜

 

早速考えなければいけないことがあった。連結決算対応そのものの経験のあるタイ人経理スタッフというのが、こちら側にもほとんどいないという現状だ。

ただ幸いにも今回の案件にワンポイントで投入するシニアマネージャーについては流石に経験があった。対応できなければ案件として成立しないだけに、こちら側としてもギリギリの案件だった。

そしてもう一つ考えないといけないことは、メイさん退職後の体制サポートだ。
「今後経理は内製ではなく、可能な限り外部委託にしていきたい」。実は山雲さんから事前に含みのあることを言われていて、それが後押しになる形で常駐の経理を派遣することも決定した。最終的には今回緊急サポート後の連結決算システム対応のことも含めて2名が必要となっていた。≪※1≫

「当社内で御社に常駐できる者がいない状況です。そこで御社向けに2名の採用を当社で行い、御社紐付きの人材としてそのまま派遣します」。ということで、こちらとしても初めての試みであったが、それがベストな選択と思えた。

ちょうどタイの人材市場の流動性が高い1月に入ったこともあり、立て続けに2人採用が決まった。2人の所属先として会社の事業目的上、派遣業を行っても問題のない当社グループ会社で正式に雇用契約を結び、早速派遣扱いで向かわせた。≪※2≫

こうしてしばらくして緊急対応していた連結決算対応も一息ついたのだが、派遣早々に想定外のことがあった。

「メイさんどうやら辞めないことになりそうです」。山雲さんからそう聞いたのは年明けくらいのことだったと記憶している。確かに最初は12月の賞与をもらってから退職するというタイあるある話(推測)で聞いていたが、その後転職活動がうまくいかなかったのか心変わりしたのか、会社に留まることにしたそうだ。結果的には良かったと言えるかもしれないが、新体制を見据えて派遣まで受け入れたばかりのまさかのタイミングであった。 (続く)

 

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

≪※1≫
一口に外部委託といっても全部外部委託にするのか一部は内製として残すのかなど様々な形態がある。その中でも、派遣という形はある意味内製の形をとった究極の外部委託とも言えよう。今後の本コラムの展開において派遣は派遣なりの送る側・受け入れる側の両方でタイならではの難しい局面も出てくることになる。いずれにせよ、どんな形での外部委託が良いかというとやはりその会社のカルチャーや体制、規模、業態などによって変わってくるので一概に言えない。それぞれの一長一短を実例として紹介していくので自社の外部委託検討時にでも参考にしていただければと思う。
≪※2≫
一般的に派遣業はライセンス業ではないものの、タイではその需要も供給も少ないので、それだけを専門にしている会社はあまり聞かない。たまにあるのがITエンジニア系の会社が客先常駐として派遣しているが、この場合は開発案件など請負に近い形で成果物が明確にできるからであろう。それ以外だと失業率の低いそもそも人材マーケットが売り手市場の中では、正規雇用が一般的なので身分の安定しない派遣市場がほとんど存在しないのはそういった理由もあると考えられる。

Accounting Porter Co., Ltd.
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E-mail : kazuhiro.tadano@aporter.co.th
http://aporter.co.th/


但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。

日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。
本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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