ビジネス・経済 2019.05月号

アジアでの「CFO経営」Vol.14 タイと日本の クロスボーダーM&Aの実務 ②

日本とアジアで20年、1300社の経営に寄り添ってきたエスネットワークスが解説する、在アジア日系企業の経営管理術。

 タイローカル企業とのM&Aを行う際に(日系企業がバイサイド(買手)を想定)、社内で意思決定ができず、交渉が長引き結果的にディールできなかったケースが多く見受けられます。

 弊社ではタイローカル企業のセルサイド(売手)アドバイザリー業務を行い、日系企業に売案件を提供してきた中で、なぜM&Aが成立しないのか、どのようにすれば成立するのかを分析しており、M&Aの実務的な目線からその分析結果を数回に渡り解説します。

経営管理レベルの低さ

 今回解説する内容は経営管理レベルについてです。4大監査法人の一つに委託し、タイ証券取引所への上場審査待ちであったタイローカル企業がM&Aを検討しており、弊社がセルサイドアドバイザリーについてFA(ファイナンシャル・アドバイザリー)業務を行いました。IM(Information Memorandum:売却対象となる企業・事業等に関する情報を詳細に記載した資料)を作成している際に対象会社の事業計画を参照したところ、右肩上がりの計画でした。しかしながら、エクセル表をもとに、計画の中身、実現性を分析していると、すべての数字がベタウチ(数式等が参照されていない)であり、マネジメントインタビューでも非常に楽観的な事業計画であると認識できました。日本のように過去の実績から算定した高度でロジカルな計画ではなく、マネジメントの感覚に近い事業計画であり、経営管理レベルが非常に低い状態でした。また、その数値を使用してバリュエーションを行い、実態とは乖離した株価になっており、売却できる可能性は極めて低い状態でした。

事前調査の重要度

 このようなケースがタイでは多く存在していることから、FAが日系企業に売り案件を持ち込んだ際には、まず売却金額の根拠、IMに記載されている事業計画の算定ロジック、実現可能性をFAに確認することが最も重要であります。こちらをFAに確認せず進めた場合、実際にDD(M&Aの対象会社に対する事前調査)を行った後に、全く実現性の無い事業計画であることが判明し、コストと時間を浪費してしまう可能性があります。

 また、FAが説明する事業計画に信憑性がある場合には、財務DD、法務DDのみならず、ビジネスDDも行って、正確に事業内容・事業計画等を分析すべきです。DDはコストが掛かるため、最低限のDDのみの場合、正確な事業の収益性が不透明なまま交渉が進み、結果的に買収後に実際は事業として儲かっていなかった、交渉時と言っていることが全然違ったなど、M&Aが失敗する可能性が大きくなります。

ローカル企業のM&Aを検討する場合には財務、ビジネス、法務DDは必ず行い、事業の収益性、事業計画の正確性が100%理解できた場合に、交渉のプロセスを進めるべきであります。

奥村 宙己
Hiroki Okumura
立命館アジア太平洋大学卒業。2014年、(株)エスネットワークスに新卒として入社。スポット支援として事業計画作成、事業デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、M&Aアドバイザリーを担当。常駐支援として管理体制構築支援、月次決算体制構築支援、再生企業の事業計画実行支援、クロスボーダーPMIを担当。タイ国において進出サポート及び会計・税務コンサルティングに従事。

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