中野陽介コラム

【ダンス経済】路上ダンサーオジちゃん (ブラジル/サンパウロ) 

【ダンス経済】路上ダンサーオジちゃん
(ブラジル/サンパウロ)

ブラジル・サンパウロのオフィス街。人通りの多いパウリスタ通りで、一人だけ明らかに奇妙な動きをしているおじちゃんが居た。

赤い水玉柄のシャツを着て、首からスピーカーをぶら下げて、恥ずかしげもなく楽しそうに一人で踊っている。白髪のおじちゃんだから、お世辞でも上手いと言えるほどのダンスではなかったが、音楽と踊れることを楽しんでいる、そんな第一印象。
表層だけではなく、彼を突き動かしているナニカがある。こんなに高齢で路上ダンス経済を作っている人は初めてだったので声をかけてみた。

「週に何日こうやって踊ってるの?」「5日だよ」「1日いくらくらい稼ぐ?」「50~100BRL(1,600~3,200円)くらいだね」「ほかに仕事は?」「してない」「なんでこの仕事始めたの?」「ダンサーだったからね。いくつになっても踊っていたいし、踊ることの素晴らしさを伝えたくて始めたんだよ」「お金よりも大切なものって何?」「健康とGood God」。

軽やかなダンス同様、全ての質問にも軽やかに答えてくれた。握手をして、私は自分のポケットの中の小銭をあげて、お互い「Thank you」と最後に言い合ってこの場を後にした。彼の姿を見て、通行人たちは思わず笑みを浮かべていた。彼はそれもちゃんと分かった上でオフィス街のど真ん中で舞っていた。そんな彼の姿を見て、私は、芸術・芸能の神様、天宇受売命(あまのうずめのみこと)の「神楽舞」を思い出した。

※通貨は1BRL = 32円で計算(2018年3月時点)


中野陽介

芸術家。1987年福岡生まれ。07年渡米、Los Angeles City College卒業。数々の映画制作に参加後、芸術に目覚める。12年 渡タイ、バンコクで芸術家とサラリーマンの2足のわらじ生活を送る。16年に1年間で22ヵ国を巡る世界一周旅を敢行。自作の「芸術入門サイト」(art-geijutsu.com)は10万アクセス突破。作品や活動記録は下記サイト参照。
yosukenakano.com

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