レストラン・生活 2018.09月号

12【態度経済】カニおじさん(メキシコ / カンクン)

12【態度経済】カニおじさん(メキシコ / カンクン)

カンクン近くのイスラ・ムヘーレス島にある小さな水族館に入っていくと、奥の方でオジさんが水槽の中を掃除したり、餌をあげたりしていた。

飼育係だろうと思って得に気も留めずに彼が眺めている水槽に行くと突然、水槽の中にいたカニを素手で捕まえて、自分の顔に当てて私を見てきた。ヒゲを表現したかったのだろうか、大きさを表現したかったのか、驚かせたかったのか、笑わせたかったのか・・。本当の所はわからなかったが、オジさんのこの奇妙な態度に僕は驚いて思わず吹いてしまった。それで彼は心を許したのか、カニやカブトガニを次々と触らせてくれた。

お金が欲しくてこんなサービスをしているのか?と最初は疑ったが、最期までそんな素振りも見せずに、隣に居たお客さんにも同じように触らせてあげていた。そのお客さんは子供連れで、子供が特別楽しんでいたので、親が最後にお礼のチップをカニおじさんにあげていた。

言語は違えど、驚きや感動などの心の動きは万国共通。カニおじさんは、一言も発することなく「態度」だけで、水族館の中に独自の経済空間を作り上げていた。

カニやカブトガニをガラス越しで見るだけでなく、実際に触れられたという体験とカニおじさんとの驚きも重なって、この日のことは強く記憶に残っている。僕でもそうなのだから、子供にとってはどんなに貴重な体験となるだろう。


中野陽介

芸術家。1987年福岡生まれ。07年渡米、Los Angeles City College卒業。数々の映画制作に参加後、芸術に目覚める。12年 渡タイ、バンコクで芸術家とサラリーマンの2足のわらじ生活を送る。16年に1年間で22ヵ国を巡る世界一周旅を敢行。自作の「芸術入門サイト」(art-geijutsu.com)は10万アクセス突破。作品や活動記録は下記サイト参照。
yosukenakano.com

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