時事通信 特派員リポート

Vol.03 首相排除で変化の芽摘む=体制維持図り結束(ハノイ支局 冨田共和)

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ベトナム共産党は第12回党大会で、新たな指導部の顔触れを決めた。実力者であるグエン・タン・ズン首相の去就に国際社会の注目が集まったが、最高指導者の党書記長に昇格することはなく、政界引退が決まった。首相が進める改革路線の行き着く先に「共産党一党支配の終わりが待つ」(日越関係筋)と警戒した勢力が結束。一党支配体制の維持を主眼として排除に動き、グエン・フー・チョン書記長の留任にこぎ着けた。

「出るくい」への反発

成長を重視して経済・社会改革を主導し、環太平洋連携協定(TPP)への参加などでグローバル化も進めるというのが、ズン首相の基本姿勢だ。大きな存在感を誇示し、書記長の有力候補とみられていた。
一方、チョン書記長らは急速な社会の変化や、「拝金主義」に根差す腐敗・汚職のまん延を危惧し、ズン首相と距離を置く。ベトナムの政治構図について、彼ら「保守派」と首相を筆頭とする「改革派」による権力闘争との捉え方が一般的だ。ただ、さる外交筋は「もともと二つの派閥があって抗争を展開したという解釈は誤り」と指摘する。
ベトナムは古くから合議で物事を決める習慣が根付いており、「『出るくい』を嫌がる社会」(日本のベトナム研究者)とされる。
党の中枢である政治局員を20年間、さらに首相を2006年以来ほぼ10年務めるズン氏は、現在のベトナムで突出した「出るくい」だ。党書記長になり、元首である国家主席も兼務するとの観測さえ出回る中で、特定の人物に絶大な権力を与えるのは望ましくないという感覚が党内で湧き上がったとみてよい。
対立軸は「ズン対反ズン」で、後者が上層部で優勢を占めてズン首相を失脚させたというのが事態の真相だ。「反ズン」側は一枚岩だったというわけではなく、「出るくい」を打つ1点で結集しただけだ。書記長候補として対抗馬を立てず、チョン書記長の留任という形に落ち着いたことが、「反ズン」側の内情を物語る。

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ベトナム共産党の第12回党大会に出席したグエン・タン・ズン首相(手前)とグエン・フー・チョン書記長(その後ろ)=1月21日、ハノイ(AFP=時事)

小異を捨てて結集

ズン首相を嫌悪する人たちに共通項を見いだそうとすれば、「現体制の変化を望んでいない」(日越関係筋)ことになるだろう。
一党支配体制の下で経験を積み、力を蓄えてきた幹部たちにとって、改革が進展した末に体制自体が動揺する事態は避けなければならないはずだ。自分の存立基盤が崩壊する恐れがあるからだ。
そうした恐怖感が、多少の思惑の違いを脇において「反ズン」勢力の結び付きを強固にさせる動機となったと言えるのではないか。改革に熱心とされるズン首相が非常に強い政治家だったために、首相を嫌う側も小異を捨てて「保守派」として集まり、力を高める必要があっただろう。
そして、結集の際の「錦の御旗」となったのが、現在のベトナムで決して否定することができない「一党支配の維持」という眼目だ。

※この記事は時事通信社の提供によるものです。
(2016年2月17日記事)

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