ビジネス・経済 2018.05月号

【タイ】タイ経済の明と暗 =ジャック・マー氏登場と「次の日本」(バンコク支局 増田 篤)

タイ・バンコクの中心街にある高級ホテルの大ホールに19日、内外メディア含め多数の関係者が一人の著名人を見ようと大挙押し掛けた。その人物とは中国電子取引(EC)最大手の阿里巴巴(アリババ)集団の馬雲(ジャック・マー)会長だ。この日、タイ政府とアリババは、タイ農産物などのEC展開やデジタル産業での人材育成の協力など、四つの覚書(MOU)に調印した。特にタイ政府の新経済政策「タイランド4・0」の中心プロジェクトである東部経済回廊(EEC)に最新の物流インフラ「スマート・デジタル・ハブ」を整備する計画にアリババが110億バーツ(3億5240万ドル)を投資することを表明、注目を集めた。

タイ政府の思い入れと馬会長の狙い

「(アリババの)最高経営責任者(CEO)に対しては30億ドル未満の投資については私に話すらするなと言っている。投資額(110億バーツ)は第1段階に過ぎない。われわれはEECや『タイランド4・0』に刺激を受けている」。馬会長はこの日の記者会見でこう明言し、タイへの継続的な投資を約束した。

当初、アリババと馬会長にとってタイでの事業展開は世界戦略の中のウエートはかなり小さいと思われた。それでも会見での一つ一つのコメントを聞くと、馬会長のタイに対する明確な狙いが感じられる。

例えば「アリババは過去19年間、急速に成長してきたが、若者や中小企業の強いサポートがあったからだ」とした上で、「いかにアリババが若者や中小企業、そして農家を助けられるか」という思いをこの日、面会したタイのプラユット首相、ソムキット副首相とも共有していると訴えた。会長はさらに、タイには「多くの農産物、特に果物がある」とし、タイの観光業を発展させ中国人の訪問が増えれば、こうした農産物を中国にもっと輸出できるようになるとの期待を示した。

タイ商業省は既にアリババ傘下のECサイト「天猫(Tモール)」にコメを中心に農産物を販売するオンラインストアを開設しており、今後は、マンゴーやドリアンなど、中国人に人気の高い果物を順次投入していく方針も発表した。

タイ経済の現状、英エコノミスト誌の見立て

タイ中央銀行が3月末、今年の経済成長見通しを4・1%と昨年12月時点の3・9%から引き上げた。特に輸出が好調なほか、観光客の増加も顕著だ。欧米のブランドショップが軒を連ねる高級デパートは買い物客であふれており、スマートフォンでの送金など、各種モバイルサービスは日本以上に急速に普及している印象だ。

英経済誌エコノミストは4月7日号の金融経済面でタイ経済を取り上げたが、同記事のタイトルは「次の日本は中国ではなく、タイだ」というものだった。ただ、それは明るい話ではなく、やや暗い話だ。同記事は「20年前、タイは新興市場で最も熱気あふれる国だった」と話を始め、1997年7月のタイ・バーツ急落を引き金としたアジア通貨危機を振り返る。

一方、現在は、「昨年の民間投資の伸びはたった1・7%で、国債利回りは米国債を下回っている」と指摘。さらに、アジア通貨危機時のような高インフレを懸念する状況ではなく、3月の消費者物価指数は0.8%と、タイ中銀の目標レンジ(1~4%)を13カ月連続で下回っているとする。

そしてあるタイ経済の専門家の「それは25年前の日本の人口動態から来ている。ゼロインフレ、極めて低い金利と経常収支の大幅黒字という日本の道筋だ」との見立てを紹介。2022年までには、タイで65歳以上が人口の14%を超え、「途上国では初めての高齢化社会の国になる」とのタイ中銀の予測も示し、「高齢化比率は中国よりもタイのほうがより早く上昇している」と強調している。

こうしたタイの高齢化社会入りは最近頻繁に指摘されるようになっており、その原因は育児コストの上昇や晩婚化などによる少子化も大きいようだ。まさに日本化しつつあるということだろう。ただ、日本と違い社会の基盤インフラ整備がまだ不十分なタイが早くも少子高齢化を迎えることのリスクを指摘する声も多い。

※この記事は時事通信社の提供によるものです。(2018年4月25日記事)

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