ビジネス・経済 2018.06月号

【ベトナム】経済活動に影落とす汚職追及 =「袖の下」根絶の期待も(ハノイ支局 冨田共和)

ベトナムでは、最高指導者であるグエン・フー・チョン共産党書記長が主導する汚職追及の動きがとどまるところを知らない勢いだ。このため当局者が慎重になり、大型投資案件やインフラ事業の許認可の停滞が目立つ。

企業活動や経済全体の成長に水を差す要因になるという懸念の一方で、行政手続きや輸出入の際に付きものの「袖の下(賄賂)」根絶などへの期待も一部で浮上している。

高成長で正当化

2017年後半以降、日系企業や金融関係者の「物事が動かない」という嘆きやいら立ちを聞く機会が増えた。法制度に定められた書類を提出しても、担当省庁や地方当局から許認可の判断が下りない。検討状況などを確かめるために足を運んでも、担当者に会えない。中には「担当省庁が『財政健全化を理由に財務省が差し止めている』と説明した」(日系企業幹部)事例もある。

当局者が及び腰になる一因は「将来、罪に問われるかもしれないから」(法曹関係者)だ。ベトナムの汚職の概念には「国家資産に損害を与える行為」が含まれる。国有企業の経営で損失を計上した場合などが該当し、在職時の判断の責任を後になって追及される。贈収賄でなくとも「汚職」になる点に注意が必要だ。

さまざまなレベルで責任回避がまん延するにつれ、汚職撲滅を重視するせいで「経済の良い流れを絶つことになりかねない」(同)と党の姿勢を疑問視する意見も出てきた。チョン書記長も、それを意識していたようだ。

ベトナムの今年1~3月期の国内総生産(GDP)伸び率は7.38%と、1~3月期としては過去10年で最高を記録した。これを受けて4月中旬に開かれた党幹部会議で、チョン書記長は「(汚職追及の)運動が経済・社会を発展させたことを示している」と語り、汚職追及は経済の足を引っ張るのではなく、逆に成長を加速させるとの見解を表明。高成長によって党の方針の正しさが立証されたとして、現在の路線を継続する構えを強調した。

税関に照準か

許認可の遅れなどのマイナス材料の半面、汚職追及の徹底で日本を含む外国企業が恩恵を受ける場面もありそうだ。

ベトナムのラオドン紙は4月、北部の港湾都市ハイフォンの税関職員らの金銭授受の実態を写真付きで報じた。税関が恒常的に賄賂を受け取っていることを白日の下にさらした記事を受けて、チュオン・ホア・ビン副首相が実態調査を指示した。マイ・ティエン・ズン官房長官も5月初め、内外の企業や商工会議所、業界団体を呼び、税の問題や通関手続きなどに関する要望を聴取している。

こうした動きに対し、在越外交筋は「記事は、通関業務を『正常化』させるというベトナム政府の意思の表れ」と指摘する。各国政府や企業の関係者は、税関だけでなく各分野の手続きに関する「不透明な慣行」(外資企業幹部)が一掃されるきっかけになるかどうか、動向を注視している。

グエン・フー・チョン共産党書記長(EPA=時事)

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