ビジネス・経済 2018.09月号

【台湾】日本食品、早期の輸入再開絶望的に= 蔡総統の支持率低迷、日台関係に暗い影(台北支局 佐々木宏)

台湾が福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産の食品を禁輸している問題が新たな局面を迎えている。最大野党・国民党が輸入再開を阻止するため準備を進める公民投票が、現実味を帯びてきたためだ。蔡英文総統の支持率は、20~30%台と超低空飛行を続け、厳しい政権運営を強いられている。

政権としては、野党にこれ以上の攻撃材料を与える余裕はなく、食品問題の処理を後回しにしている格好だ。日本側は不満を強めており、日台関係に暗い影を落としている。

国民党、「核食」と不安あおる

「『核食』などに反対する3つの公民投票は、無能な(民進党)政府への監督を強化するためだ」―。国民党の曽永権副主席は7月24日、5県産食品を「核食」と表現して不安をあおるとともに、公民投票の実現に必要な署名集めを党員や支持者に訴えた。

国民党が進める公民投票は、台湾政府による5県産の日本食品禁輸措置を継続することに賛成か否かを問う内容。同党は、今年11月24日に行われる台北などの市長選や地方議員選を含む統一地方選と、公民投票の同時実施を目指している。公民投票を単独で実施する場合に比べ、同日実施は党員や支持者を容易に動員できるメリットがある。

公民投票を実現するには、有権者の1・5%に相当する約28万人の署名を集める必要があるが、国民党は党員だけで約45万人おり、公民投票は実施される可能性が高い。
2014年の統一地方選、16年の総統選と立て続けに大敗した国民党は生き残りをかけ、11月の統一地方選で党勢を回復したいところだ。国民党関係者は「公民投票は統一地方選に向け、党員や支持者の団結を図るための手段だ」(国民党関係者)と言い切った。

公民投票成立なら2年間禁輸継続

農林水産省によると、11年の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の後、54カ国・地域が福島県産などの食品輸入に何らかの規制を実施。このうちの27カ国・地域がこれまでの規制を完全に撤廃した。残る27カ国・地域のうち、禁輸を含む厳しい規制を続けているのは台湾のほか、中国、韓国、シンガポール、香港、マカオの計6カ国・地域。このうち中国の規制は、台湾が禁輸の対象とする5県産に、宮城、埼玉、東京、新潟、長野を加えた計10都県産の全食品を禁輸する最も厳しい内容だ。台湾は中国に次ぐ2番目の厳しさと位置付けられる。

各国の規制緩和を受け、17年度の福島県産農産物の輸出は210トンと、震災前年の10年度の153トンを超え、統計を開始した05年度以来の最高を更新した。
蔡政権は16年5月の発足後、福島県産を除く食品の規制緩和に動いた。国民党の求めに応じて同11月に台湾各地で開いた公聴会では、中台統一派の反日団体構成員が暴れるなどして、一部で流血の騒ぎに発展。これをきっかけに、禁輸解除に向けた動きはほぼストップした。

日本台湾交流協会台北事務所の沼田幹男代表(大使に相当)は、国民党が署名活動を本格始動した7月24日、同党の対応に失望を表明する異例のメッセージをフェイスブックなどで公開。代表は200億円もの義援金を被災地に寄付した台湾の人々に改めて感謝した上で、「ご厚情に報いるにはまず、自分達が復興した元気な姿を皆様にお見せすることだと思っている。被災地の人々が復興に向け頑張ってきた中で、この問題が政治問題として扱われてしまったことを誠に残念に思う」などと強調。日台関係の発展のためにも、科学的根拠に基づいた問題解決を台湾側に強く求めた。

公民投票が禁輸継続の賛成で成立した場合、規定に基づき輸入再開は2年間禁じられることになる。ただ、成立には有権者の4分の1に当たる約470万人が賛成票を投じる必要があり、国民党にとっても大きな賭けだ。統一地方選で退潮が予想され、守勢に回る与党・民進党は静観する見通しだ。

※この記事は時事通信社の提供によるものです。(2018年8月3日記事)

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