ビジネス・経済 2018.10月号

【タイ】泰緬鉄道、世界遺産登録目指す= 史実伝え反戦の象徴に (バンコク支局 東敬生)


橋が崩れ落ちるラストシーンと早川雪洲の熱演が記憶に残る巨匠デビッド・リーン監督のアカデミー賞映画「戦場にかける橋」。モデルとなった泰緬(たいめん)鉄道の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産指定を目指す動きがタイで本格化している。

建設中に起きた悲劇を前面に出すのではなく、史実の一つとして後世に伝え、反戦を訴えるのが狙いだ。

1年で415キロ敷設

泰緬鉄道は第2次大戦中、旧日本軍がタイとビルマ(現ミャンマー)の間に建設した。1942年に着工し、全長415キロをわずか1年で完成させた。建設には連合国軍の捕虜のほか、東南アジアの労働者を大量に動員。過酷な労働環境や熱帯病が原因で10万人以上が死亡したと伝えられ、「死の鉄道」と呼ばれている。

ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)の国内組織、タイ・イコモス国内委員会は、鉄道や駅、クワイ川鉄橋、連合国軍捕虜の墓地、慰霊碑などを申請の対象とする方針。ミャンマー側の鉄道は既に廃線となっているため、タイが単独で申請する計画だ。

世界遺産に登録するには、「世界遺産条約履行のための作業指針」に定められた10の登録基準のうち、少なくとも1項目を満たさなければならない。イコモス国内委のボウォンウェート委員長は、泰緬鉄道は基準のうち、(1)人類と環境の触れ合いを代表する顕著な見本(2)顕著な普遍的価値を有する出来事や生きた伝統との直接または実質的な関連-の2項目に当てはまると自信を示す。ただ、ウィラ文化相によると、年内にタイの暫定リストに載せるのは難しい状況だ。

残虐性は強調せず

イコモス国内委は地元のカンチャナブリ県で5月と7月に公聴会を開催。世界遺産登録の目的は戦争の残虐性を強調し、鉄道建設中に起きた特定の出来事に直接言及することではないと説明した。ボウォンウェート委員長は取材に、「世界史の一部として、戦争を再び起こしてはならないと訴える反戦の象徴にしたい」と話す。タイや英国が実施した事前調査で建設に5~10年かかるとみられた鉄道をわずか1年で完成させた技術にも焦点を合わせたい考えだ。

世界遺産に登録されるとユネスコから保存、管理の徹底を求められるため、地元では当初、「タイの遺産を国際機関に引き渡すことになるのではないか」との不満の声が上がった。そこで、イコモス国内委は「世界遺産に登録されれば価値が高まり、観光客が増える」と説得。今では全面的な支持を得ているという。

泰緬鉄道が世界遺産の候補になり、旧日本軍の行為が改めて浮き彫りになれば、日本との関係に影響しかねないという懸念も一部にくすぶる。ボウォンウェート委員長は「日本側には残虐性には触れないと約束している」と述べ、理解を求めていることを明らかにした。

カンチャナブリ県のジーラキアット知事も「特定の国を批判する意図はない」と強調。1991年に世界遺産に登録されたアユタヤ王朝の遺跡群「古都アユタヤ」に関しても、18世紀にビルマの王朝に攻撃されて滅亡し、建物は徹底的に破壊されたが、「われわれはミャンマーの名誉を傷つけていない」と語った。泰緬鉄道の申請に当たっては、「死の鉄道」という直接的な名称は避け、「第2次大戦中の歴史的鉄道(死の鉄道)」として登録を目指す方針だ。

※この記事は時事通信社の提供によるものです(2018年9月6日掲載)

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