ビジネス・経済 2018.11月号

【タイ】タイに着実に押し寄せる中国勢=EECと「一帯一路」はつながるか(バンコク支局 増田篤)

8月下旬、タイ・バンコク市内のホテルで「タイランド・チャイナ・ビジネス・フォーラム」が開催された。タイ政府の主要経済閣僚が、中国の王勇国務委員と中国民間企業のトップ幹部400~500人を迎え、その盛況ぶりは今年4月下旬に中国電子取引(EC)最大手の阿里巴巴(アリババ)集団の馬雲(ジャック・マー)会長がタイでのビジネスプランを披露したイベントをほうふつさせるものがあった。

中国の投資額を倍増に

「中国の『一帯一路』政策により、東南アジアは世界各国と接続する戦略的拠点に変わった。その中心のタイは、CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)や中国、インドとの結びつきが強い。中国企業にとって投資先として最適な国だ」と、同フォーラムであいさつしたのは、タイ軍事政権の経済政策を仕切っているソムキット副首相だ。

中国経済界の大代表団は同フォーラムの翌日、タイ政府の最重要政策になっている東部経済回廊(EEC)地域のラヨン県ウタパオ空港やチョンブリ県のレムチャバン港などを視察。一方、ソムキット副首相は、現在約730億ドルのタイと中国の投資・貿易総額を2021年までに1400億ドルまで拡大したいとの意欲を表明した。

実は最近、タイにこうした経済界の大代表団を送ったのは日本が先だ。17年9月には世耕弘成経済産業相率いる日本企業幹部500人超がEEC地域を視察した。今年に入っても、ソムキット副首相が7月下旬に訪日し、三重県の鈴木英敬知事と面談したほか、名古屋市で行われたタイ経済に関するセミナーで講演するなど長年の日タイ蜜月関係は揺るぎないようにも見える。

親日国も中国になびく

EECの前身ともいえる東部臨海開発を、1980年代から見てきたという学習院大学国際社会科学部の末廣昭教授は、8月下旬にバンコク市内で開催された「メナムフォーラム」で講演し、「当時は東部臨海の大規模工業化より、農村開発をやるべきだとの意見も多かった。しかし、(85年の)プラザ合意後に日本企業がどっとタイに来て、結果オーライで東部開発が進んだ」と振り返る。

末廣教授はタイの主要経済戦略「タイランド4.0」とEECについて、かつてはマーケティングばかり得意で実体が伴わないタイの体質から、絵に描いた餅になりかねないと警鐘を鳴らしていた。しかし、今回の講演では「(東部臨海開発と同様に)本当にできるのかと思っているうちに日本や中国の企業が来て、他力本願のタイがEECで発展する可能性がある」と語った。

さらに同教授は、最近の中国のタイへの急接近について「EECは今や一帯一路と完全にリンクしている」と指摘。17年9月の新興5ヵ国(BRICS)首脳会議にプラユット首相が特別招待されたことを紹介し、「中国はEECを、タイは一帯一路をそれぞれサポートすると合意した。EECの将来は中国の出方と関係する」との見方を示した。

圧倒的な親日国と安心して付き合ってきたタイも、他の東南アジア諸国同様、世界のスーパーパワーとなった中国に、傾きつつある。タイ経済は統計データ上、好調だ。しかし、「中所得国のわな」を抜けられないまま高齢化社会へ突入しており、現政権には焦りも見受けられる。インフラ整備、経済社会のデジタル化などへの前のめりの姿勢の先には中国の姿が見えるのかもしれない。

※この記事は時事通信社の提供によるものです(2018年9月28日掲載)

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