時事通信 特派員リポート

【タイ】スラムの移民、ごみ山で生計= 阻まれる教育機会(バンコク支局 東敬生)


 タイは毎年1月第2土曜日、子供の日を迎える。この日は各地で子供を楽しませる行事が目白押し。普段は立ち入れない軍施設では子供たちを戦車やヘリコプターに乗せ、機関銃を握らせる。政府は首相府に恐竜の巨大な模型を並べ、子供たちをもてなす。
 今年の子供の日に当たる12日、バンコク東部テープラクサー地区のミャンマー人移民が多いスラムでも催しが行われた。軍や政府による大規模な行事と異なり、ささやかながら、子供たちは炎天下、縫いぐるみなどが当たる抽選会や踊りに目を輝かせていた。しかし、楽しい時間は一瞬だけ。教育機会を阻まれ、貧困に苦しむ日常が待っている。


ごみの分別作業に当たるミャンマー人の移民労働者=12日、バンコク

日当1千円、思惑外れ

 着いた途端、生ごみの腐敗臭に包まれた。テープラクサー地区は大都市バンコクの住民が出すごみの集積地。収集車が次から次へと到着しては、荷台に満載した黒いごみ袋やペットボトルを降ろしていく。
 スラムは約2万4千平方メートル。東京ドーム半分ほどの敷地に粗末な家が所狭しと並び、約700人が身を寄せ合って暮らす。地面は乾期の今でもぬかるんでおり、大雨に見舞われる雨期は衛生状態が一段と悪化しそうだ。
 住民の6割はミャンマーからの移民。早朝から夜までごみの分別作業に汗を流し、日銭を稼いで糊口(ここう)をしのぐ。ごみを仕分けてペットボトルを裁断。出来上がったチップを中国に輸出する。中国では衣料品などに利用するという。
 援助関係者は「3K職場を避けるタイ人は長続きしない」と明かす。タイには推定でミャンマーから300万人、カンボジアから130万人、ラオスから60万人の移民労働者が流入している。少子高齢化が進むタイで、底辺を支える貴重な労働力になっている。

腐敗臭の中で分別作業

 ごみ分別の日当は大人でも300バーツ(約1千円)ほど。生活は厳しく、子供の手を借りざるを得ない家族も少なくない。子供の日の催しで、ミャンマーの伝統の踊りを披露したタックさん(15)も家計を助けるため、ごみ山に行く。
 12年前に家族と国境を越えてきたタックさんは学校に通ったことがなく、読み書きができない。タイ政府は移民の子供にも教育機会を与える方針を打ち出している。しかし、学校が受け入れるかどうかは校長の判断次第。また、言葉の壁もあり、実際には移民の子供の多くが通学していない。タックさんは「学校に行って読めるようになりたい」と幼児向きの絵本を手につぶやいた。
 タックさんの母は、厳しい環境でも「仕事がないミャンマーより生活はいい」と受け止めている。一方で、タイ移住を悔やむ家族もいる。ウェンティーさん(42)とマーロンプーさん(38)の夫妻は1男3女を連れ、2年前にタイに来た。1日の家庭の収入は800バーツほど。賄わなければならないのは、食費と月3800バーツの家賃・光熱費だけではない。
 一家は移住を仲介した業者と2万8千バーツを支払う契約を交わした。高額な上、高利子がかかり、支払いは今も続く。「タイはもっと仕事があり、稼げると思った」とスラムの生活に不満を抱く夫妻は、「借金を返したら早くミャンマーに戻りたい」とため息交じりに語った。
この記事は時事通信社の提供によるものです(2019年1月28日掲載)

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