【連載第38回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

事例別に紹介する新シリーズ!
個人所得税編(3)「コムファイ社の場合(後編)」

〜赴任初年度、タイで初めて申告納付する川外さん。日本本社から源泉徴収票を取り寄せ、タイで追加納付が必要な所得税を算出し、追加分を本社から送金してもらおうと掛け合い始めたが…〜
※本事例のコムファイ社タイ法人は駐在員1名、スタッフ規模6名程度の製造アセンブリ業である。

「赴任後に日本で源泉してしまった分は、今度、預けてくれるそうです。しかし、前年度の住民税は本人負担だから、本社で負担できるのはその分を引いた残り分だけだと言われてしまいまして…」。
「ん~、確かに道理ではありますね。そうなると、3月末までにこの住民税分をご自身で用立てしておく必要がありますが、いかがでしょう?」

日本本社が支払っている、赴任者への日本円での給与取扱については、本社側で『みなし所得税』として、本来、日本にいれば納付すべき金額を算出したものをベースにするなど、予め日本円給与から控除する場合が多い。この場合、年度末の所得税納付時に、タイベースで最終的に算出された差額分を本社負担で本人に送金、納付してもらうのだが、コムファイ社の対応は少し違っていた。

本人にとって、結果はあまり変わらないものの、赴任後も本社側で源泉所得納付をしてしまっていたようなのだ。通常は会社内でプールするのみで、赴任後は非居住者に該当するため、日本で納付は行わない。
コムファイ社では、仕方がないので納付してしまった源泉所得分はイレギュラー処理として、タイでの申告時に控除する調整をした。ただ、悲しいかな、住民税は前年度分を当年度負担なので、会社の取扱によっては、自分で負担する分は自分でリザーブしないといけない場合があり、川外さんもそれに引っかかってしまったのだ。懐事情は厳しいようだったが、意を決したように川外さんは黙って頷いた。ただ今回は、もうひとつ特殊事情があった。

「本社から度々出張に来ている、社長分の給与の扱いはどうなるんでしたっけ?」
「タイの居住者ではないものの、タイ法人からタイにいる間の役務の対価として支払いしている給与については、タイでの課税対象になります。なので、その分も申告納付が必要ですが、合算所得する分がなければ、既に毎月源泉所得している金額がそのまま納付額と一致するので、恐らく追加で納付する分はないでしょう」。

その後、本社社長については、(タイならではのことだが)この年度の終わり際に発表された税率改正がなんと遡及して適用となり、僅かだが還付を受けることになった。川外さんの追加納付とは対象的な出来事だったわけだが、「これも勉強ってやつですね」という、前向きでスッキリした川外さんの表情に救われたのであった。
(次回、個人所得税編の続き、「ラークマイ社の場合」が始まります)

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。


Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke), Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表:日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadano@aporter.co.th
http://aporter.co.th/


但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。
本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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