【連載】但野和博のコンサルコラム サポート実録記“タイの経理現場より”

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ウイサー社編(5)「ようやくVISA更新申請」

【前回迄のあらすじ】
~発給要件の運用が厳密化しているVISA/WP(ビザ・ワークパーミット)の申請代行業務。数々の不利な条件のオンパレードの中、少しづつ前進しつつも、本人同行が必要なスケジュール組みに四苦八苦していた…~

「聞いていたとおり、株主は合弁先と折半になっています。しかし、役員に日本人のサイン権者が見当たらないのですが…」。
どうやらこういうことらしい。会社設立時の代行業者が、その会社のタイ人スタッフ名義で最初に会社を設立したのは良いとして、その会社が使っているタイ人弁護士や関係者がそのまま役員として残っていたのだ。(※1)
設立時、すべて代行業者にお任せで役員についてはこれまで特に説明がなく、説明も求めていなかったためと思われるが、今はとにかく急いで役員を変更する必要がある。しかも役員の改選には株主総会が必要だ。後日わかったことだが、合弁先のタイ人と東さんをサイン権者として登記変更する予定だったらしく、東さん本人は変更していたものと思っていたらしい。「ということは、社会保険届けの手続きも終わっていないかも…」。
社会保険の手続き上、いわゆるサイン権のある役員の署名は避けて通れない。すぐに確認したところ、当初採用したスタッフについては幸いにも手続き済みだった。ただ、これから採用する補充スタッフ分が、このままだと間に合わない。それでもどうにか登記上の弁護士を辿り、バンコク郊外のその弁護士事務所まで出向いて調整し、株主総会関係の一連の手続きも踏み、ようやく変更のための前提が揃う頃には、既にVISA申請受付期間に入っていた。
そしてこの時、またも大きな試練がやってきた。この期に及んで、肝心のVAT登記のためのビルオーナーの承諾が、まだ代行業者から得られないのだという。(※2)
「もはや待ったなしなので、この件はこちらで引き取り、オーナーと直接連絡を取って話をつけます!」
その時知ったのだが、どうやらオーナーは物件が転貸されていること自体知らなかったという…。何とかビルオーナーとも話がまとまり、ギリギリセーフで承諾書を得て、すぐにWP申請に。
ここに来るまで3ヵ月。もうさすがに障壁はないだろうと思い、次なるVISA更新申請に入ろうとしたのが2013年11月。この月、タイ全土を揺るがすあの事件が起きたのだった。
(次回に続く)
※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

(※1)
会社設立には3人の発起人(自然人)が必要で、かつ発起人は設立時に最低1株以上保有することが民商法典で定められている。発起人はタイ人に限らず日本人でもなれるが、登記時の申請書類の通りやすさなどから、設立の依頼先の会社が用意するタイ人弁護士などに入ってもらうことも多い。また、その流れでそのまま、依頼元会社とは関係のないタイ人が最初に役員として登記されるケースもよくあるが、しかるべき社内体制になった時点で退任してもらうなど調整が必要にも関わらず、依頼先の会社任せでその後の調整を行っていない会社も見かける。最初に専門会社へ設立を依頼する際、その後の枠組みなども含め、よく案内してもらうことが必要である。
(※2)
第7回のコラムでも簡単に取り上げたが、VAT登記(税務登記)をするためにはオーナーの承諾が必要である。もう少し細かく言うと、登記されているのは通常、土地だけなので建物オーナーというより底地である土地のオーナーの承諾が必要となる。そのため、土地と建物のオーナーが同じ場合は良いが、違う場合もよくあるので留意が必要である。
通常の事務所の場合はもっと厳しい場合が多く、関連会社までの登記は認めているものの、第3者の会社の登記までは認めないことが多い。資本関係のない提携先に机だけ貸した場合などに税務登記ができないこともあるので要注意だ。

 

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Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、
顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan@aporter.co.th
http://aporter.co.th/

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但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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