【連載】但野和博のコンサルコラム サポート実録記“タイの経理現場より”

ウイサー社編(3)「明るみになる条件不足」

【前回迄のあらすじ】
~発給要件の運用が厳密化しているVISA / WP(ビザ・ワークパーミット)の申請代行業務。必要な税務書類を揃えるにあたり、ウイサー社では自社対応ができないことがわかり、また、当社は外注先としても業務は受け付けていないため、同社の合弁先に準備してもらうことに…~

「VISA取得してきました」。林さんから連絡が来たのは、それから程なく2週間ほど経った頃だった。
「それでは、必要な書類を準備しますので、合弁先の連絡先を教えてください。あと、お手元の会社謄本も提出願います」。
それからさらに2週間。店が忙しいということで、なかなか連絡が来なかった林さんからやっと電話が。しかし、開口一番飛び出したのは、「実はこの2週間でオープニングスタッフが1人辞めてしまって、3人になってしまいました…」という報告。
VISA/WPの発給要件として、申請時から遡って直前3ヵ月分の社会保険申告書、個人所得税源泉申告書の控えが必要で、この書類はタイ人雇用数の条件を満たしているかどうかを示す重要な証明にもなっている。書類上、原則3ヵ月間は日本人の雇用1名に対しタイ人の雇用は4名必要なのだが、これからという時にタイ人が1名欠けたのは痛恨の極みだ。(※1)
「辞めてしまったことは仕方ありませんので、すぐに補充の採用をしてください。採用活動をしていれば、理由書を作って対応できると思いますので」。
理由書とはやむを得ない理由がある時の、必要書類上の要件を満たさない場合の公式的な逃げ道だ。ウイサー社の場合のように会社を設立して間もない状況で、3ヵ月分のタイ人スタッフ4名以上の雇用実績を課すというのはさすがに至難なことが想定できる。この場合は、理由書に“設立当初につき採用活動中”というような内容で記載することになる。このくらいのケースは割とよくあるのだ。(※2)
ただ、それよりも気になることがあった。「先ほどスタッフが合弁先に確認した限りでは、まだVAT登記をしていないと聞きましたが…」。と林さんに聞くと、「VAT登記って、何でしょう?」という返事が。スタッフが欠員し、林さんにとってはお店の運営で手一杯。日本の社長である東さんも、オープン後はあまりタイにも来られていない。
「お店の売上が一定額以上である場合、VAT事業者になるので登記が必要です。申請書類にも必要ですので、すぐにVAT登記する必要があります!」
合弁先とはあまりコミュニケーションも取れていないようで、しかも純粋なタイ人の会社なので、日本人のVISA/WPなどにはそもそも関心すらない。当然、その取得法についてもノウハウはないのでこちらで対応することとなった。
そしてその時、また気づいてしまったのである…。登記住所であるお店のビルオーナーが、直接の貸主でないことを…。
(次回に続く)
※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

(※1)
最近、別の事例で社会保険登録の申請代行を受けた際に対応事務局に出向いた際、目の前で事務担当官が教えてもいない登録対象者のタイ人の携帯番号を何故か割り出し、電話をして本人確認したことがあった。そのタイ人はたまたま自分の事業を持っていて、そちらでも社会保険登録していたからかもしれないが、いずれにせよ運営が厳格化しているのを肌で感じた出来事だった。また、同一人物が複数の会社に社会保険登録することは、理屈上は可能なのだが、一方だけを解除することができず、改めて存続する方を新規申請する必要があるなど、運営面では柔軟性がない。登録している本人にとっても煩わしいため、副業で社会保険登録をしているタイ人を採用した場合は、本人の退職時などに巻き込まれることのないよう留意したい。
(※2)
VISA/WPの申請手続き時に限らず、税務申告や登記申請時なども、当局側から正当な理由があるのであれば、それを記載するようにと言われ提出した経験のある方も多いかもしれない。それ自体は正式な手続きの書類ではないものの、何かと書類至上主義的ながら裁量権の多くを当局に持たせる、タイならではのスタンダードな一面が、この理由書といったものによく現れている。また、経理内部書類上も独自で経理処理をする場合は、会社側で内容や理由を記載したものを証憑(経理書類)代わりに添付してあるのをよく見かける。これがあるからと言って、後日の税務調査時などで必ずしも何も問われないかと言うと、そうでもないと思うのだが第3者的立場から見ると、引き継ぎ文化がなく、人材の流動性も高いタイではあった方が良い書類だと思う。

 

accounting porter
Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、
顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan
http://aporter.co.th/

 

tadano
但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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