【連載27回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記 “タイの経理現場より”

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タールア社編(第6回) 「支払い承認は本社特権!?」

【前回までのあらすじ】 ~源泉票の発行など、経理まわりのアドミニストレーション業務分担を誰がどこまでやるのかという境界線が不明瞭のままで、署名権者のタイ不在が重なるタールア社に、その後訪れた事態とは…~

タールア社の運営が始まって数ヵ月ほど経ったある日のこと。ちょうど税金の支払い直前だったので7日や15日あたりだったと記憶している。現場を預かる井勃さんから急ぎの連絡が入った。
「本社の支払い承認が間に合わないのですが、何とか期日までに税金を支払う方法はないでしょうか?」
井勃さんは現地法人の役員ではないものの、銀行出納権限を持っているのでてっきり毎月、井勃さんが税金の納付前に銀行宛小切手に署名しているものと思っていたのだが、よ く聞いてみるとこういうことらしい。
アドミン担当のサリーさんが現場で支払伝票などを取りまとめて、井勃さんに署名をもらう。ここまでは良い。この後、サリーさんか井勃さんから本社経理宛に支払承認を申請する。ここまでも手間だが、内部統制権限が随分厳しい会社なのだろうといったところだ。そして、本社経理がさらに本社代表に申請し、そこで代表がインターネットバンキングを使って承認するらしい(※1)。
「んっ!?通常の諸払いは良いとして、税金の納付は誰宛に振り込むのですか?」と聞いてみたところ、サリーさんの個人口座宛に支払い、そこから払い出して納付するという(※2)。
内部統制権限が厳しいというよりは、権限をローカルに委譲することを極力避けたつもりでの対応なのかもしれないが、かえって内部統制にリスクがある状況と言える。サリーさんが悪いというわけではないが、当たり前のことだが、法人として個人口座を経由する支払いは極力避けたほうが良いのは言うまでもない。
「社長のほうが出張先で連絡が取れず、支払承認が間に合いそうにないのです…」。
すがるように井勃さんにそう言われてしまうと、「では、今回に限っては、当社への会計報酬のお支払いと一緒にできるだけ早く振り込んでいただけることを前提に、当社で立て替えましょう」と勢いでそのときは受けてしまったのである。
取り急ぎは立替納付して乗り切り、それから数日後に確かに立替分と報酬分の入金もあったので、そのこと自体もしばらくは忘れていた。そんな矢先、また井勃さんから電話が入った。「すいません、今回もまた間に合いそうにないのです…」。
(次回に続く)

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の 変更等、脚色部分があります。

(※1) タイの銀行であれ、日本の銀行のタイ支店であれ、インターネットバンキングを法人登録して使用できる。しかしながら、日本の銀行の場合、タイ当地における納税機能などは対応が容易ではないようで、タイの銀行でインターネットバンキングを使うほうが汎用性が高いと言える。使い勝手としても、トークンやSMSサービスによるワンタイムパスワードなど、セキュリテ ィ面でも一定の安全性がは確保されていることからするとまずまずである。
但し、タイ当地ならではの事情もある。日本の銀行間送金取引を統括する「全銀協」に相当するものがなぜか3つほど存在していたり、送金手数料もそれぞれ異なり、場合によっては受け取る側が送金手数料の一部を負担しなければならない場合があるなど、事情を知らないと請求額と入金額が一致せず腑に落ちないことも多い。
(※2) 日本と異なり、タイでは法人である限り、基本的な納税が毎月発生することが軽視されがちだ。何度も記載しているように、事務の煩雑さはボリュームを増しているばかりか、資金繰りにも当然影響するため、留意すべきである。特にVAT取引額は通常、売上入金額の7%なの で、月末残高から目減りする金額も大きい。売上入金額は実力の7%増しと覚えておけば良いだろう。もちろん支払った時に発生する仕入VATもあるので全て納付するわけではないも のの、給与などはVAT非課税であったりするわけなので、資金繰り上はあくまでも保守的に見 ておいた方が良い。

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Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、
顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan@aporter.co.th
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但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中

 

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