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第11 回 ミャンマーの新雇用契約書の雛形

ミャンマーの新雇用契約書の雛形

堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY国際法律事務所共同代表弁護士

東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。SAGA国際法律事務所(www.sagaasialaw.com)代表であり、2016年2月よりタイにTNY国際法律事務所(www.tny-legal.com)を設立した。タイ法及びミャンマー法関連の法律業務(契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

問い合わせ先:yujit@tny-legal.com

はじめに

2017年8月28日付けで労働省より発布された通知にて、雇用契約書の新しい雛形が示された。本通知により、雇用契約書の雛型を提示した2015年の通知(2015/1)は無効となるが、旧雛形で締結している雇用契約書は、その期限が終了するまでは有効である旨記載されている。

全体として、項目数は23から21に減少し、一部簡潔化されたと解される。

第3.契約期間(第5条)

新雛形において、「労働者が本契約のいずれの条項にも違反しなかった場合、契約期間は延長することができる。ただし、使用者は十分な理由なく契約期間の延長を拒んではならない。」旨規定されている。従来は契約の更新拒絶に際して何らの規制もなかったため、労働者を解雇したいものの、解雇を行うに足りる十分な理由がない場合には、更新を行わないという方法で対応が可能であった。

しかし、新雛形においては更新拒絶を行うためには十分な理由が必要であるとしており、十分な理由がどのような場合に認められるかは明らかではないものの、仮に解雇と同程度の理由を要求される場合、雇用期間を短く設定する意味が薄れることとなる。

新雛形では労働契約において
十分な理由がないと更新拒絶ができなくなった

第4.休暇(第7条)

産休に関して、産前産後の休暇取得可能日数に変更はないものの、6カ月以上勤務という取得要件が追加された。

家族が死亡した場合は、法律に基づいて付与された休暇が残っていない場合でも、無給での休暇の取得ができる旨が明記されている。

第5.解雇(第15条)

契約終了及び解雇に関する必要事項は使用者が責任を有する旨明記されている。1回目の契約違反には口頭注意、2回目は書面注意、3回目は誓約書の取得という手続きを経て、4回目で初めて解雇できる旨の手続規定は引き続き残っているものの、「3回目の違反があってから12カ月以内に再度通常違反を犯した場合は、解雇できる」との規定及び「通常違反を犯した後12カ月違反を犯さなかった場合又は3回目の違反を犯して12カ月が経過した時点で違反歴は消滅する」旨の規定が追記された。

従来は前の違反行為との間の期間に関する制限はなかったため、解雇が難しい方向に改正された。

第7.労働者の責任(第17条)

労働者の責任として、「業務の必要性に従い発行された職場の安全指導に従わなければならない」、「職場に入る前に業務上必要な安全器具を着用しなければならない」旨規定された。これにより、現場での安全器具の装着が雇用契約書上明確化され、義務付ける法的根拠が生じたと解される。

第8.雑則(第21条)

雇用契約書は、労働法に規定されている権利及び利益を損なわない限り、事業の性質により、使用者及び労働者の50%以上の合意によって変更できる旨規定されている。通常、雇用契約書は個別の労働者と会社との間の合意であり、雇用契約書において労働者の50%以上の合意に言及されていることについて違和感はあるものの、いかなる場合に雇用契約書を変更できるかについて明記された点に意義があると解される。

また、本通知が発行される前に、旧雛形で締結された雇用契約書は契約期間が終了するまでは有効である旨明記されている。

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