ビジネス・経済 2019.05月号

未来を創るナノテクのチカラ No.63

WI‒FIの電波を電力に変換する 2Dマテリアル

 スマートフォンやスマートウォッチを始めとしたウェアラブルデバイス、各種センサーなどのIoTデバイス。これらデバイスにとって最大の技術的な障害はバッテリだと言っても過言ではない。CPUやGPUといったプロセッサの進化に比べて、バッテリ容量の進化は(進んでいるとはいえ)圧倒的に遅い。

 ではもし、バッテリなしでもデバイスを使い続けられるとしたら? これを目指しているのが、エネルギーハーベスティングと総称される技術だ。環境中にある光や電波、熱、振動などからエネルギーを取り出すことができれば、デバイス本体にバッテリを備えていなくても動作に必要な電力を供給できる。太陽電池も、エネルギーハーベスティングの一種といえる。

 しかし、エネルギーハーベスティングでウェアラブルデバイスやIoTデバイスを動作させるのはなかなか難しい。電卓や時計程度なら小さな太陽電池でも動かせるが、高度な処理はできない。電波から電力を取り出す研究も進められているが、WI–FIや携帯電話網等で使われているギガヘルツ帯の電波から、十分な電力を取り出すことはできていなかった。

 MIT、マドリード工科大学、米陸軍研究所、マドリード・カルロス3世大学、ボストン大学、および南カリフォルニア大学の研究チームは、2次元マテリアルを使ってWI–FIから電気を取り出すデバイスを開発した。

 マイクロ波を直流電流に変換するアンテナはレクテナと呼ばれる。ギガヘルツ帯を補足できる従来のレクテナはシリコンまたはガリウム砒素を利用しているので折り曲げられない。また柔軟な素材でできたレクテナは、ギガヘルツ帯を補足できないという短所があった。

 今回の研究では、3原子分の厚みしかない2次元マテリアル、二硫化モリブデンを利用。約150ΜWのWI–FI電波から約40ΜWの電力を生成することに成功した。このデバイスは、柔軟かつ安価。ロール状に巻いた基板に回路パターンを印刷し、またロール上に巻き取る、ロール・ツー・ロール方式での製造が可能だという。

 東北大学は平均電力50ΜW以下で動作周波数200MHZのマイコンの実証に成功しているが、こうした超低消費電力デバイスとエネルギーハーベスティングによって、まもなくIoTは新しいステップに進むことになりそうだ。


MITなどの研究チームが開発した柔軟な「レクテナ」。
WI-FIなどに用いられる周波数帯の電波から、電力を取り出せる。

空中に浮かんだ3DCGを操作できるシステム

 ヘッドマウントディスプレイを使って、VR空間内で3D映像を楽しむのはもはやそれほど珍しいことではなくなった。しかし、3D映像が本格的に普及するためには、やはり特殊なディスプレイを使わず裸眼で立体的に見えるディスプレイが不可欠だろう。将来的に大きな市場になることが確実であるため、さまざまな研究機関やメーカーが活発な研究を行っている。

 宇都宮大学山本研究室とニコンが研究しているのは、空中に3D像を投影するライトフィールドプロジェクション技術*¹。ライトフィールドカメラは、撮像素子の前面に微小なレンズを多数配置した、昆虫の複眼のような構造をしたカメラである。それぞれの画素が光線の入射方向や明暗などの情報を保持しており、これらのデータを加工することで3D像を生成できる。研究チームは、ライトフィールドカメラの撮影レンズの代わりに、投影レンズと再帰反射シートを使うことで、記録された光線を逆方向に再生し空中に投影できるようにした。こうした投影された映像は、異なる方向から見ると違ったように見えるため、リアリティが高くなる。

 一方、愛知工業大学の研究チームが開発したのは、空中に表示した3D映像をインタラクティブに操作できるシステム*²。このシステムは、マイクロミラーアレイプレートや3DセンサーのKINECT、モーションコントローラのLEAP MOTIONなどで構成される。マイクロミラーアレイプレートが、足下に設置されたディスプレイの映像を透過・反射して空中に投影。KINECTがユーザーの視点を追跡し、LEAP MOTIONがユーザーの指の動きを捉える。ユーザーの視点を追跡されているため、ユーザーは視差のある立体的な画像を見ることが可能になった。

 空中に投影された3Dオブジェクトを直接「触って」、拡大縮小、変形させる。そうしたやり方が、これからのものづくりの基本になっていくのかもしれない。


空中に表示された立体映像を、直接触って変形させる。BY SHINJI MIZUNO

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