日刊工業新聞

グローバル 経営 適地生産適地販売 三菱樹脂 ― 透湿性フィルム3極生産

インドネシアに工場新設 紙おむつ向け アジアで供給体制整備

三菱ケミカルホールディングス傘下の三菱樹脂は、紙おむつや衛生材料に使われる透湿性フィルムの3極生産に乗り出す。これまで水島製造所(岡山県倉敷市)と台湾子会社の太洋製膜で主に日本と台湾向けに供給してきたが、アジアの人口増やインドネシアでの生活水準向上を追い風にインドネシアに新工場を開設。2019年までにフル稼働にする。

インドネシアのジャカルタに新工場を立ち上げ、3極生産に挑む

三菱樹脂の透湿性フィルム「KTF」は、ポリエチレンに炭酸カルシウムを加え延伸した多孔質フィルムだ。水蒸気を効率的に通す一方で水滴は通さない特性を生かし、不織布などにラミネートして使われる。3極の全生産量の9割を日系の衛生材大手に供給しており、インドネシア新工場も乳幼児向け紙おむつ市場の開拓を狙う顧客ニーズに応えたものだ。

衛生材各社が海外の市場開拓を急ぐのは、国内がすでに頭打ち状態にあるからだ。低い出生率を背景に乳幼児用の需要は縮小し、期待される大人向けも「ほぼ全対象者が使う乳幼児用に比べ使用率は8%」(産業・メディカルフィルム事業部事業部長付の金子涼さん)と低い。訪日外国人旅行者(インバウンド)向け“バブル”の収束も停滞感に拍車をかけた。
これに対し、高い出生率を誇る中国やインド、インドネシアはまさに成長市場。特にインドネシアは著しい経済発展に伴い生活水準が飛躍的に向上。紙おむつもより快適で蒸れにくいものが求められ、高い透湿性と通気性、防水性を持つ透湿性フィルムの需要が伸びている。当面は乳幼児用が主体だが、いずれ大人用市場の醸成も期待できる。

アジア特有の気候や文化も拡販には好材料だ。金子さんは「実は透湿性フィルムの良さを評価してもらえる国・地域は限られる」と明かす。例えば、紙おむつが普及している欧米市場では、より好まれるのは非通気性の製品だという。半面、アジア市場では圧倒的に高い通気性を備えた製品が人気だ。湿度の問題や体質の違いも影響しているようだ。
メード・イン・ジャパンの高い品質も現地で支持される理由の一つ。透湿性フィルムも同様で、実際に日系の衛生材大手は不具合や品質面の問題が多い海外製の採用に消極的という。ここにきて最新設備を導入した中国勢が攻勢をかけつつあるが、ノウハウ不足なのが実態。日本勢はさらに、きめ細かいアフターサービスでも競争優位に立っている。

ただ、日本勢の主要4、5社では差別化が難しい側面もある。乳幼児向けの紙おむつは景気動向に左右されやすいことも悩みで、透湿性フィルムも世界的な供給過剰状態を抜け出せずにいる。「日本では1日に7―9枚を交換するのが一般的だが、海外では高価なこともあって多くて2枚。不景気になれば当然、購買意欲も下がる」(金子さん)と苦笑する。
それでも、三菱樹脂は他社に先駆けてフィルムを薄膜化した強みを持つ。薄くすることで装着時の違和感が軽減できるだけでなく、体積が減るためゴミの削減にも貢献する。
この先も独自技術を訴求しながら、いち早く海外市場を取り込んでいく戦略だ。

※記事提供・日刊工業新聞(堀田創平 2017/1/11)

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