【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

【連載】半歩先読み、タイ自動車市場 ~タイ自動車ユーザの実態と展望~ 

第12回 タイの電気自動車(EV)市場の課題(前編)

政府のEV市場の見通し

電気自動車(EV)120万台普及の見通しは、2013年にエネルギー省のまとめたエネルギー効率化化計画(EPP)の推計に基づいており、同計画から2035年のEV市場規模は約13万台規模に到達する。これに、国内市場とほぼ同規模の輸出市場があることを前提にすると、タイは20~30万台規模のEV生産ハブを目指すことになる。これはタイのエコカーの生産規模にほぼ匹敵し、2016年のEVの市場規模がゼロ、プラグインハイブリッド(PHEV)が約200台、ハイブリッド(HEV)3,500台の現状からは、かなり野心的な数字である。

EV推進政策の背景

EV推進政策の背景として要因として指摘されるのは、新規投資誘致/新規産業育成である。他方で、中国のように大気汚染は深刻でなく、既存のCo2排出量連動物品税政策でCo2排出用削減に成功しているタイは、環境政策面でEVを実施する喫緊性はない。
タイの自動車産業は、2012年に生産が244万台に到達した後、生産は現在180~190万台で低迷しており、自動車関連投資も停滞傾向にある。他方で、周辺地域のインドネシアでは近年生産能力を200万台近くまで増強。

タイとして、域内での自動車産業での優位性を引き続き維持するためには、新規技術関連の投資を引き込む必要性が高まっている。なかでも、タイ政府がEVに着目するのは、首相ないしタイ政府関連者の「新しいもの好き」が影響していると筆者はみるが、その前提となるのが、テスラモーターのモデル3の販売拡大や欧州メーカーのEV/PHEV拡販計画でEVの世界自動車市場でのプレゼンスの急上昇である。

また、タイ政府は、国内での技術開発やR&D能力強化を目指しており、グローバル自動車メーカーによって支配されている内燃機関やハイブリッド技術と比べると、EVの方が現地企業が参入できる機会があるとみる。このことが、同じく電動化技術を前提としているHEVより、EVを重視する一因となっていると推測される。
現にローカル企業は、中国系と背後に組んでEVか関連ビジネスに進出する動きがみられる。アジア地域では技術的優位性のあるハイブリッド技術の普及を「次世代技術」としていち早く進めていきたい主要日系メーカーにとっては、タイのEV重視政策はそのシナリオを崩しかねない課題をはらんでいる。次節以降では、電気自動車の市場の普及の見通し、及び課題について述べる。


マネージング・ダイレクター
岡崎啓一


シニアコンサルタント
山本肇


《業務内容》 経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
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