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タイにおける個人情報保護法について

1 はじめに

タイにおいては、これまで個人情報の保護に関する法令がありませんでした。

しかし、デジタル産業の急速な発展により規制整備の要請が強まったことや、欧州連合(EU)が個人情報保護を大幅に強化する規則(GDPR)を施行するなど世界的規模で個人情報保護に関する意識が高まっていることを受け、2018年5月22日、個人情報保護法案が閣議決定されました。18年9月5〜20日にはパブリックヒアリングが開催され、施行日などに関し企業などから意見が出されました。

個人情報保護法が施行される日は現時点では未定ですが、公布から180日後の施行と決まりましたので、19年中に施行される可能性もあります。

2 法令案の概要

現時点における法案によると、「個人情報」とは、個人に関する情報で、直接又は間接に当該個人を特定しうるものをいいます。単なる名前、肩書、就業先、就業先の住所、あるいは特定の故人の情報は個人情報に含みません。

個人情報の収集、使用、開示に関する判断についての権利義務を負う者(自然人又は法人)は、「個人情報管理者」として、主に以下の規制に服します。

(1)個人情報の収集は、個人情報管理者の活動に直接関連する適法な目的のために必要な範囲でのみ行うことができます。

(2)原則として、個人情報の収集は、個人情報の対象である当該個人から書面または電子的な方法による承諾を得た上で行う必要があります。また、その際に当該個人に以下の通知をしなければなりません。

(a) 収集の目的
(b) 収集対象である情報
(c) 収集された個人情報の開示先に関する情報
(d) 個人情報管理者の連絡先、連絡方法
(e) 個人情報へのアクセス、削除、停止、匿名化等の依頼とい った個人情報に関する個人情報保有者の権利

(3)個人情報の漏洩や悪用がなされないよう、個人情報管理者は法令を遵守し適切な方法・体制で個人情報を保管する必要があります。どのような方法・体制によるべきであるかは、現時点では不明確ですので、今後個人情報保護委員会から発表される予定のガイドラインを参考にすることになります。

3 タイ国外に所在する事業者等に関する注意点

タイ国外に所在する事業者が本法令の適用対象となるかどうかについて、法令は、タイ国外に所在する事業者であっても、個人情報収集の一過程がタイ国内で行われたといえる場合、タイ国内における活動の前段階の行為であると意図して行われた場合、あるいは、個人情報収集等の行為の結果がその後タイ国内において生じることが予見できる場合は本法令の適用があると定めています。

しかし、どのような場合に個人情報収集の一過程がタイ国内で行われたといえるか等、具体的な運用解釈は現時点では明らかにされていません。たとえば、日本企業がタイ国内で個人情報を収集等する場合に本法令の対象となることは明らかですが、単に個人情報収集等がタイのデータセンターを利用して行われた場合やオンラインサービスを提供する日本の事業者がタイ国内の顧客から個人情報を収集等する場合に本法令の適用があるかどうかは、現時点では不明確だと言わざるを得ません。

これについても、今後個人情報保護委員会から発表される予定のガイドラインを参考にすることになります。

また、タイ国内で収集された情報を国外に持ち出す行為は、持ち出す先の国が十分な個人情報保護基準を有していること及び今後個人情報保護委員会から発表されるガイドラインの規定に従うことが条件とされています。

4 おわりに

タイにおける個人情報保護法案の大枠は固まったといえますので、今後順次発表される予定の各ガイドライン等に従って各事業者において対応措置を講じていく必要があります。

 

One Asia Lawyersグループ タイ事務所

弁護士(日本法)古橋いぶき
2018年からタイに常駐し、タイにおける契約、M&A、労務、紛争解決等の案件対応を執り行う。

【One Asia Lawyersグループ タイオフィス】
399 23 Floor Unit 2301, Interchange Building, Sukhumvit Road, North-Klongtoey, Wattana, Bangkok 10110
Thailand +66(0)61-780-1515

 

One Asia Lawyers (旧JBL Mekong)

「One Asia Lawyers」は、日本およびASEAN各国の法に関するアドバイスを、シームレスに、一つのワン・ファームとして、ワン・ストップで提供するために設立された日本で最初のASEAN法務特化型の法律事務所です。

当事務所メンバーは、日本およびASEAN各国の法律実務に精通した専門家で構成されています。日本およびASEAN各国にオフィス・メンバーファームを構えることにより、日本を含めた各オフィスからASEAN各国の法律を一括して提供できる体制を整えることに注力しております。

本記事に関するご照会は以下までお願い致します。
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