PwC タイビジネススタディ

PwC タイ税務スタディ 恒久的施設(Permanent Establishment : PE)課税


松下 駿太郎
Manager

2009年にあらた監査法人に入所、日本において製造業を中心に約5年間監査業務に従事。
2015年9月にPwCタイに赴任。タイ国日本企業の会計監査、内部統制監査などの監査業務のサポートだけでなく、会社設立やビジネスライセンス取得、事業再編などを税務および法務面でサポートしている。日本国公認会計士。
+66(0)2 344 1466(直通)、+66(0)98 282 1372(携帯)
matsushita.shuntaro@th.pwc.com

<質問>

日本の製造会社(A社)はタイの得意先に製品を直接販売していますが、タイにある別の会社(B社)に販売促進活動を依頼しています。B社がA社より販売促進活動の対価としてサービス料を受領する場合に、A社のタイにおける課税関係はどのようになりますか?

代理人PE課税

歳入法典第76条bisによると、タイに従業員、代表者、仲立人(以下、代理人等)を有し、それによりタイから所得を得ている外国法人は、タイにおいて事業を営んでいるとみなされます。この場合、当該代理人等は、外国法人の代理人としてタイにて外国法人の申告・納税を行う必要があります。
しかし税務委員会ルーリング仏暦2526年2号(※)が定めるように、代理人等が以下の要件を満たし外国企業から独立して活動する場合は、第76条bisに規定される代理人等には該当しません。
【独立代理人の要件】
①通常の事業として、ブローカーや代理人として複数の外国法人のために活動し、特定の外国法人・外国法人グループのために活動しないこと。

②サービスの提供先である外国法人から独立の立場にあること。すなわち、当該外国法人から事業制限を受けるような契約を締結しておらず、また、実態としてもそのような制限がないこと。

③事業上、物品販売に関する手数料以外の便益を外国法人から受けていないこと。

④物品販売に関して、購入者が直接、販売元である外国法人に対して代金を支払うこと。
また、外国法人への課税には日タイ租税条約において制限が加えられています。すなわち、本件にて日本の製造会社がタイから受領する販売対価は、租税条約第7条における「事業所得」に分類されます。事業所得に対する法人税は、当該外国企業がタイにPEを有していなければ課税されません(※)。

PEの意義

租税条約第5条によると、PEの状態は①資産②活動③代理人の3つに分類されます。
①資産PE
事業所、支店、事務所といった事業上の特定拠点をいい、その拠点を通じて日本法人の事業がタイにて行われるものをいいます。
②活動PE
日本法人の従業員等がタイで行うサービス活動をいい、当該活動が同一のプロジェクトまたは複数の関連プロジェクトについて、12ヵ月間のうち合計6ヵ月を超えて継続するものをいいます。また、3ヵ月を超えて継続する整地、建設、据付、組立工事またはこれらに関連する監督活動も、この活動PEに含まれます。
③代理人PE
日本企業の代理人として契約を締結したり、日本企業所有の商品在庫を保管し、日本企業の代わりに定期的に受注・出荷業務を行ったり、日本企業の代わりに受注活動を行う個人あるいは法人をいいます。
しかし問屋、ブローカー等、通常の事業としてこれらの業務を行う代理人は独立代理人とされ、日本企業がPEを通してタイで事業を行っているとはみなされません。ただし、代理人が特定の日本企業のために活動しているのであれば、独立代理人とはなりません。

《質問への回答》

B社は、A社がタイから製品販売収益を獲得するよう受注活動を行い、タイの得意先との販売取引を促進しています。B社が同様のサービスを通常の事業として他の一般の外国企業にも提供しているのであれば、B社はA社のPEとはみなされません。従って、A社はタイにおいて法人税を課されることはありません。
逆に、B社が常に、A社あるいはA社の支配関係のあるグループ会社にのみ当該サービスを提供している場合は、B社はA社のPEとみなされます。この場合、A社はタイで事業を営んでいるとみなされ、税引前利益に対する20%の法人税および税引後利益に対する10%の利益送金税が課されます。

 

<質問>

株式配当によって増資をする場合、当該配当は株主にとって課税所得とみなされますか?

《質問への回答》

株式配当は、留保利益を株主に分配する場合に、資金の外部流出を伴う金銭配当を避けるために採用される手法の一つです。株式配当を行うと、会社の留保利益は資本金に組み替えられ、配当金に代えて新株が株主に発行されます。従って、株主は金銭を支払うことなく新株を取得することができます。しかしタイでは非公開会社、公開会社それぞれにおいて、以下のような法律上および税務上の検討事項があります。

非公開会社

民商法典上、非公開会社における株式配当は禁じられています(第1119条)。すなわち、同条では株主の(配当受領権と株式払込義務の)相殺による新株引受を認めておらず、非公開会社は対価を受け取らずに新株を発行することはできないことになります。
このため実務上の代替手段として、会社が新株を発行すると同時に株主に現金配当を行い、株主は受け取った配当金を新株引受金として会社に払い込む方法をとることとなります。一般的に、一連の手続きは一日で完了できます。この方法によれば、株主は新株引受の対価を実際に支払っているため、前述の民商法典に抵触しません。

公開会社

会社が公開株式会社法(仏暦2544年2号)に基づき設立された会社である場合には、株主の相殺による新株引受が認められています(第117条)。従って、株式配当は法律上問題ありません。
ただしこの場合は、株式配当の受け取りが株主の課税所得になるか否か、税務上の検討が必要となります。歳入法典第39条によると、課税所得には、金銭に換算しうる資産やその他便益の取得が含まれます。また同法第40条(4)(b)では、配当、利益の分配またはその他会社からの利得は、課税所得に該当すると規定されています。

配当は原則として、受取人が個人か法人かを問わず、10%の源泉徴収税が課されます。従って、配当を実施した会社は源泉徴収義務を負い、配当支払月の翌月7日までに源泉徴収税額の申告納税を行う必要があります。例外として、受取人が上場会社または持株会社(配当を行う会社の議決権ある株式の25%以上を保有する会社)の場合、配当を実施した会社は源泉徴収義務を負いません(歳入局通達仏暦2528年Taw Paw 4)。

歳入法典第39条に基づく課税所得は、「金銭価値のある資産またはその他便益の受取」と定義されています。株式配当は、単に留保利益の資本金への組み替えにすぎず、株主の財産は取得した株式を売却するまでは変動しないため、株式取得時点で課税所得とされるべきではないとも考えられます。しかし株式配当は株主に対する報酬として会社の利益を分配する方法の一つであり、その目的において通常の現金による配当と変わるところがありません。従って、株式配当は株主にとっての「便益」であり、「金銭価値が認められるもの」として、タイの税法上課税所得とされています。

以上の理由から、歳入局は株式配当は配当所得(課税所得)であり、10%の源泉徴収税の対象であると判断しています(タックスルーリング仏暦2544年Kor Khor 0811/9198)。

《PE課税の事例》

日本の会社(C社)がタイの得意先に鋼鉄製品を販売する契約を締結しました。C社は配送期間の短縮および顧客への供給を容易にするために、輸出した製品をタイの保税倉庫に保管しようと考えています。C社は保税倉庫内の在庫管理者としてD社と契約しようとしています。C社はタイに製品を輸送し、D社の倉庫に保管します。その後、得意先はD社を通じてC社に発注します。D社はC社の代わりに受注し、得意先に製品を出荷するため、代理人として活動することになります。D社は他の会社に対してこのようなサービスを提供しません。
⇒C社はタイで事業を営んでいるとみなされ、代理人(D社)を通じてタイで納税する義務が生じます。日タイ租税条約においてもD社はC社に属する代理人とみなされ、タイにおいてPEを構成することになります。

※ArayZ2016年11月号掲載、第9回『技術支援に係る税務』参照

◎このコラムは「時事速報BANGKOK」で以下年月に掲載されたものです。
2016年4月7日、5月4日


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