【連載第54回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

シーポム社編(10)
「向かっていける気持ち」

(前回までのあらすじ)
〜メイさん退職後の新派遣体制として新たに2名全く新しいポジションを追加投入し、バックオフィスの新体制が整った矢先でのまさかのムマさんからの退職の申し出に対し、何とかプロパー社員になってもらうことで事なきを得たと思いきや…〜

それは突然訪れた。
「ムマさんが退職しました…」。八雲さんからそう聞かされたのはプロパー社員に切り替わってまだ日も浅く2,3ヵ月くらいしか経っていなかった。

「机に置き手紙があっただけの本当に突然のことでした」。≪※1≫
退職時の状況も聞いた限りは蒸発するように辞めてしまったようで、その手紙にも特に決定的な理由は書かれていなかったとのこと。

「アメージングタイランド!」~このセリフは決してわくわくとかドキドキといった楽しいものではなく、想定を超えた事態に対してどうすることもできない無力感と、自分に対して改めて喝を入れるような思いがないまぜになったものだが、まさにこういう時に使うのだろう。

自分も八雲さんもある程度分かってはいたのだ。その時のムマさんの働きぶりでは本来のマネージャーポジションにはまだ足りないということを。ただ、地位が人を育てるという言葉もあるし、その時の状況も後押しした期待値先行型のポジションだったことが、結果的に能力を超えて本人の中で消化できなかったようだ。≪※2≫

その後、これで何度目かわからないくらいの採用面談を経て、今度はしっかりとマネージャーというポジションを見据え、プロパーで採用をしてもらった。そしてようやく求めていた体制を迎えたのだった。新マネージャーが入ってからは事務所の雰囲気も明らかに明るくなり、あれから1年経ったが、以前のようなバタバタした感じもなく今ではすっかり安定している。

「長かったですね~」。

悠久なるメコン川を目の前に、時折吹き上がってくるゆるい風を浴びながら山雲さんとラオスビールを水のように喉に流し込み、しみじみと思い返している。ここはラオスのビエンチャン。

今後また何か起こったとしても、この時の情景で飲んだこのビールの喉越しの良さを思い出せれば、まだまだ向かっていける。そう思ったのは、メコン川に暮れなずむ夕日とその後訪れる夕闇のわずかな間だ。同じ気持ちを共有し、前に進んだときに初めて湧き起こる、安堵と勇気。この時のわずかな時間は自分の中では今でも長く続いている。<完>

≪※1≫
突然辞める場合のパターンとしては、何の連絡もなしに突然来なくなるということも多いが、そういった中での置き手紙という今回のパターンは初めてだったのでまだましだったと言えよう。とはいえ、突然辞めるのは、辞めてもらいたい場合以外は望ましいものでは当然ないので、少なくとも1ヵ月前に申し出ることを雇用契約や就業規則で定めておくのが通常である。
≪※2≫
前回取り上げたように、マネージャー職になるタイ人のレベルには給与のばらつきがあるが、能力は同じでも責任感のばらつきもある。タイ人マネージメントの観点からも部下を束ね業務を遂行するというのは日本式マネージメントとそれほど変わらないため、責任感の有無は重要な要素だ。これは面談をこなしていくだけではわからず、実際採用してみないと面談では見えてこないことのほうが多い。ある程度の業務経験上のスキルはレジメや面談の中でもおおよそ察することができても、責任感の部分については推し量るのは難しい。﹁できます﹂と言う触れ込みで入社しても、結局は給与水準だけ高くなって、部下のほうが責任感を持っていたりすることも多い。

Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
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日本 (代表:日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadano@aporter.co.th
http://aporter.co.th/


但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。
本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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