予断を許さないタイ政局 8年ぶりの総選挙に向け、権謀術策を駆使する各党

 軍事クーデター再発の噂や王女を擁立したタクシン元首相派政党の解党危機、軍政に批判的なテレビ局の一時放送禁止など、3月24日の総選挙(小選挙区比例代表並立制の下院定数は5百)に向けて、予断を許さない状況が続くタイの政局。

 プラユット首相が率いる軍政権は、政敵のタクシン元首相派政党・タイ貢献党(プアタイ)などが政権を奪取できないように憲法・選挙制度を改正・変更しており、国民国家の力党(パランプラチャーラット)など親軍政党が勝利するとの見方が強まっている。首相も上下両院の計750人(軍が任命する上院議員の定数は250)が選出するため、非国会議員であるにもかかわらず、プラユット暫定首相が続投する見通しだ。


奇策が失敗に終わったタイ国家維持党の幹部


プラユット暫定首相

 国民国家の力党のウッタマ党首は、「タイ人は平和な社会を求めている」と14年のクーデター後にライバル政党同士の大きな衝突が起こっていないことなど、軍事政権の功績を強調。経済面では、軍事政権が推進する東部経済回廊(EEC)を手本として、全国に同様の政策を広める考えを明らかにしている。

 スダラット元保健相とともにタイ貢献党の次期首相候補に推されているチャチャート元運輸相は、EECについて、「すでに莫大な投資をしているので後戻りできないが、3空港を結ぶ高速鉄道は必要ない。デジタルパークも疑問だ」と総論では賛成だが、各論では反対との態度を示した。


スダラット元保健相


チャチャート元運輸相

元実業家で新未来党のタナトーン党首は、「タイは元来、全方位外交を維持してきたが、中国から鉄道などのインフラ、不動産などの投資をここ数年、受け入れ過ぎた。もっとバランス感覚を持って、日本や欧州諸国などとも付き合うべき」と、中国寄りの軍事政権に釘を刺した。
タイ最古の政党、民主党のアピシット党首は、「バンコクに集中する権力を地方に分散。経済の地域格差や賃金の格差など、不平等な社会構造を変革しなければならない」と土地に関する税制度を見直すなど、富裕層に相応の負担を受け入れるよう呼びかけた。

政党別の支持率(※)を見ると、タイ貢献党が36%と、国民国家の力党(23%)、民主党(15%)、新未来党(8%)を大きく引き離した。一方、「首相にふさわしい人」の1位はプラユット首相(26%)で、スダラット元保健相(24%)を僅差でリード。アピシット元首相(11%)、タナトーン党首(6%)が続いた。55%の回答者が、次期政権に経済の建て直しを最優先に行うことを期待している。


タナトーン党首


アピシット党首

「アジアで活躍できる人材とは」有識者らがサシンで日本人学生らと交流

チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター(SJC)、明治大学ビジネススクール、紫藤会とタイ日本人学生会(JSAT)は2月9日、日本とタイで活躍する有識者・ビジネスパーソンと、交換留学・インターンシップ中の学生の交流を目的とするフォーラム「アジアで活躍する人材になるために、今するべきこと」を共催した。

人口減少による市場縮小が避けられない日本の将来を見据えて、多くの企業が成長市場として期待するアジア諸国での事業拡大を図っている。だが、同地域で通用する人材が思うように育っておらず、日本の将来を危ぶむ声が少なくない。

国際連合(UN)環境計画のムシュタク・アーメド・メモン氏は、グローバル社会における英語などの重要性を強調。「間違いを恐れずに話しかけて議論すること。趣味の範囲で構わないので、他国の文化や慣習を学ぶこと。型にとらわれない発想を持つこと」が必要と述べた。

UN機関の調整を行う常駐調整官事務所の佐藤桃子氏は、「多国籍な職場環境で働いていると、日本人特有のあうんの呼吸が通用しない。きちんとした説明責任が求められる」と強調した。

サシン卒業生で山田コンサルティング&スパイア(タイランド)勤務の近藤道輝氏は、タイ人とのネットワーク構築、市場などの知識、資金などを、事業家としてタイで活躍するための重要な要素に挙げたが、「とにかく、事業を立ち上げてみること」とエールを送った。

日立製作所からインターンとしてサシンのコンサルティング部門に席を置く荒井千鉱氏は、自社との職場環境を比較。上司とのフラットな関係、定時内での私語など自由な環境の驚くとともに、「転職を繰り返す人が多いが、きちんとしたキャリアプランを持っている」と初めての海外留職を有意義に送っている。

最後に登壇したSJC所長で明治大学ビジネススクール准教授の藤岡資正氏は、「自分の人生とは何かを考え続けること。やらなかったことを後悔しないことが大事」と、自身が卒業後の人生で役に立ったという哲学や社会学を学んで素養を高めるよう助言した。

学生からは、「タイで活躍する方々の話は興味深く、多くの気づきを得た」などの声が聞かれた。


セミナーに参加した有識者と学生

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