ミャンマーの最新ビジネス法務

第4回 商標に関する法制度

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第4回 商標に関する法制度

はじめに

自社のブランドや技術などを保護する知的財産権に関する法律は、会社にとって重要なものです。しかし、ミャンマーにおいて知的財産権に関する法律は、ミャンマー著作権法のみであり、これ以外に商標権や特許権などの知的財産権を直接的に保護する法律は存在しません。

もっとも、ミャンマー政府も知的財産権に関する法整備の必要性は認識しており、既にWIPOの支援を受けながらドラフトは何度も作成しています。間もなく成立するという報道も多いですが、具体的成立時期は未定です。
したがって、商標法はミャンマーに存在しないため、専用権や禁止権を有する商標権は存在しません。しかし、登記法や刑法などにより一定の保護が与えられており、また、不正に商標を使 用する者に対しては、コモン・ローの原則に基づき損害賠償請 求を行い得ると解されています。

商標権を直接的に 保護する法律は 存在しない

刑法上の保護

刑法は商標を定義しており、特定の者の製品または商品であることを示すため使用する標章を商標という旨が規定され、その上で、以下の行為に対しては刑罰を科す旨を規定、一定の商標侵害に対処しています。
①自己以外の者の製品または商品であることを合理的方法により信じさせるために、物品、包装、容器などに商標を付す行為
②自己以外の者の商標を侵害する行為
③商標を侵害する目的で、金型、金属板、その他の道具を作成または所持する行為
④侵害商標を付した物品等またはそれらの包装や容器の販売、展示、または製造などを目的とした所持

登記法上の保護

(1)登記手続
登記法および登記指令13に基づき、商標の登記が認められています。ミャンマーにおいては、先使用の原則が採用されており、最初の使用者が優先して登記する権利を有します。商標の登記は必要書類および情報を農業・畜産・灌漑省管轄の証書登記事務所に提出して行い、具体的な流れは次のとおりです。
①出願様式及び委任状と認証済みの所有権宣言書を証書登記事務所に提出
②4~6週間後に登記手続き完了。登記手続完了後、出願書類に出願日、登記日及び登記番号が付与され、公印が押印されているので当該書類を受領
③新聞に警告通知を掲載
④3年毎に掲載を繰り返す
商標の登録は出願登録ではなく、権利者であることを宣言し、 その宣言書を証書登記事務所に登記するというやり方で行われています。

(2)登記の効果
商標を登記したとしても、登記者が商標の所有者と看做されるわけではなく、登記を行っていることを理由として直ちに差止めなどを行うこともできません。しかし、商標を不正に使用された場合などに裁判を提起した場合、登記の事実が所有権の立証のための有力な証拠の一つとして取扱われます。

望ましい対応

登記法上の商標の登記は上述のとおり、完全な権利の保全手段とはなりませんが、現在のミャンマーの法制度上採ることができる有効な手段であり、今後、商標法が成立した暁には、円滑に商標法上の登録ができるような制度が検討されています。また、中国において多くの問題が生じたように、ミャンマーにおいても先に多くの商標を取得する企業や個人が現れる可能性があり、その際に当該商標の取消や譲渡を求めることは手続き的、時間的、金銭的に大きな負担となります。
ミャンマーにおいて自社の商標の権利を主張するためには、 ミャンマーで登記する必要があり、ミャンマーに会社を設立していない状態でも商標の登記は可能であることから、ミャンマーに進出を検討している企業および進出済みの企業は、商標の登記を行うことが望ましいと考えます。

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堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY国際法律事務所共同代表弁護士
東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。 SAGA国際法律事務所(www.sagaasialaw.com)代表であり、2016年2月よりタイにTNY国際法律事務所(www.tny-legal.com)を設立した。タイ法及びミャンマー法関連の法律業務(契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。
問い合わせ先:yujit@tny-legal.com

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