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Q&Aと実務解説 タイ・ビジネス関連法務

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事業縮小編

Q3
タイの現地法人の事業縮小を考えています。どのような方法があり、どのような点に注意すべきでしょうか。

A3
事業を縮小するにあたっては、検討すべき事項も多く、その事項ごとに注意すべき事項もさまざまです。

【1】事業譲渡
事業の縮小にあたっては、当該事業そのものを切り出すことを希望されることもあろうかと思いますが、その場合には、いわゆる事業譲渡を行うことが考えられます。しかしながら、事業の切り出しを目的として行われる包括的な事業譲渡や会社分割といった制度が存在する日本と異なり、タイにおいては、いずれの制度も存在しません。したがって、タイにおいて事業譲渡を行おうとする場合には、当事者となる会社間で、移転させる債権・債務を特定し、譲渡契約を締結する必要があります。したがって、その特定作業が非常に煩雑で、困難となる場合があります。

【2】人員整理
事業を縮小する場合には、人件費を抑える目的で、従業員を削減することも考えられます。この点、事業縮小の際の従業員の解雇(整理解雇)というのは、タイ法の下では通常解雇と区別して規定されているものではありませんので、通常解雇と同じ手続きが要求されます。したがって、整理解雇には、その公正な理由の存在と手続的要件が満たされていることが必要となります。この点、整理解雇をするか否かは基本的には会社に委ねられているものの、事業縮小に伴う解雇が、法的に公正な理由を有していると認められるためには、人員整理に至った理由、損失の規模、損失が計上されている期間、解雇する人数等を総合的に考慮して、事案ごとに判断されます。
なお、整理解雇をする前には、労働者や労働組合との協議を慎重に行い、また、解雇を回避するための努力(他部署への異動や賞与の減額等)を尽くし、代償措置(対象者への金銭給付や次の職の斡旋等)を執ることが望ましいと考えられています。

撤退編

Q4
タイの現地法人の運営が上手くいきません。会社の清算や破産・会社再生の申立をすることも考えていますが、どのような方法があるでしょうか。

A4
現地法人の解散や破産・会社更生の申立の手続は、以下のとおりです。

【1】会社の清算
非公開会社の清算は、以下の手続きで行うことができます。

①会社の解散決議
会社の解散決議は、特別決議が必要です。
②解散登記
解散決議後14日以内に、解散と清算人の登記を行います。
③解散の公告と債権者への通知
解散決議後14日以内に新聞で公告を行い、債権者全員に書面にて解散の通知を行います。
④所轄税務署への通知
解散決議の登記後15日以内に行う必要があります。
⑤会社の資産の処分、返済
会社の有する資産を処分し、債権者へ債務を返済し、その後貸借対照表を作成し、会計監査を受けた後、株主総会にて承認を受けます。
⑥清算報告書の作成
清算終了後、清算報告書を作成、株主総会にて進捗状況を報告し、株主総会後14日以内に登記をする必要があります。
⑦清算完了
清算完了後、清算人は会計帳簿等を10年間保管する義務を負います。

会社の解散・清算には、数ヵ月から数年を要する場合もあります。会社の解散・清算は、法務の観点からみれば、その手続きは日本と大きく変わらず、タイ固有の煩雑な手続きというのも特段ないと言えますが、解散・清算の手続で注意を要するのは、税務当局対応です。税務の処理については、管轄税務当局次第でその要する期間はさまざまであり、数年を要する場合もあります。

【2】法人の破産・会社更生の申立
タイにおいては、1940年破産法(Bankruptcy Act B.E. 2483)が存在し都度改正されており、法人の破産や会社更生の申立についての定めが置かれています。

(1)破産申立
破産の申立は、以下の手続きで行われます。通常、破産手続は3ヵ月から6ヵ月程度を要しますが、場合によっては8ヵ月から1年程度を要する場合もあります。

①破産の申立
タイの法人が自ら破産を申し立てることはできず、債権者からの申立が必要となります。破産法上、破産の申立が認められる要件として、(1)債務者が債務超過に陥っていること、(2)単独又は複数の申立人に対する債務額が、法人の場合には合計200万バーツ以上あること、(3)弁済期の時期に関わらず、債務の金額が確定できること―が必要となります。
②財産保全命令
破産申立原因が認められれば、裁判所が債務者の財産保全を命令します。裁判所が財産保全命令を下した場合には、債務者自身はもはや資産や事業に関する権限を失い、裁判所、管財人、債権者集会の承認がなければ、何も行うことができず、管財人が財産管理権限を有することになります。
③債権の届出
債権者は、財産保全命令による公告から2ヵ月以内に管財人に対して、債権を届け出なければなりません。ただし、債権者がタイ国外にいる場合、管財人は2ヵ月を超えない範囲で届出期間を延長することができます。
なお、財産保全命令前に担保権を有する債権者については、破産手続に依らず、担保権を実行できます。
④債権者集会
管財人は直ちに債権者集会を招集し、 債務者からの和議の提案又は裁判所への破産宣告の申立、及び将来的な債務者の財産の管理につき検討をしなければなりません。
⑤和議の承認
債権者集会における特別決議(投票をした債権者の過半数かつ全債権者の債権額の4分の3以上の賛成)により和議が承認され、裁判所が認可した場合には、和議は原則として全債権者を拘束 します。
⑥破産宣告
債権者集会において、債権者が破産宣告を求めるか、和議の承認決議がなされなかった場合には、裁判所は破産宣告をします。
⑦財産の配当
その後、管財人は債務者の財産を調査・収集し、換価して、債権者に配当することになる。この配当は、破産宣告から6ヵ月以内に行わなければなりません。

(2)会社更生
また、破産手続に従うのではなく、会社更生手続により、会社の再建を図ることも考えられます。会社更生の申立は以下の手続に従うことになります。

①会社更生手続の申立
会社更生手が認められるための要件は、非公開会社を前提とすれば、(1)債務者が債務超過に陥っていること、(2)合計300万以上1000万バーツ以下の債務があること、(3)事業再生の合理的な見込みがあることであり、債権者だけではなく、債務者自らが申立を行うことができます。
②更生開始決定
裁判所は、申立原因が存在すると認める場合、更生開始決定をします。裁判所が更生開始決定を下した場合には、債務者自身はもはや資産や事業に関する権限を失います。
③更生計画案作成人の選任
更生計画案作成人は、原則として申立人が推薦した者が選任されますが、裁判所が適当でないと判断する場合や債務者や債権者が別の者を推薦した場合には、裁判所は、更生計画案作成人が選定するための債権者集会を招集します。
④債権届出
債権者は、更生計画案作成人選任の公告から1ヵ月以内に、債権を管財人に届出なければなりません。
なお、破産申立と異なり、更生開始決定命令前に担保権を有する債権者については、破産申立と異なり別手続きにおいて優先的に担保権を実行できません。
⑤更生計画案の作成・提出
更生計画案作成人の選任の公告から3ヵ月以内に、更生計画案を管財人に提出します。更生計画の実施期間は、5年を超えない範囲で定められます。
⑥更生計画案の承認
更生計画案は、債権者集会において承認されなければなりません。その承認の要件は、(1)すべてのグループ債権者集会において特別決議により承認され、(2)一債権者グループ以上の債権者集会において特別決議がなされ、かつ債権者全体について投票した債権者の債権総額の半数以上が賛成することが必要です。ここでいう債権者のグループとは、(1)全債権額の15%以上を有する有担保権者、(2)その他の有担保権者、(3)一般債権者、(4)法律または契約による劣後債権者に分けられます。
もし更生計画案が承認されなかった場合には、更生開始決定が取り消されます。
⑦会社更生手続の終了
裁判所は、更生計画実施期間終了までに更生計画が実施されたと判断した場合には、会社更生手続の廃止を決定します。他方で、更生計画実施期間が終了し、破産が相当と判断した場合には、財産保全命令を下すこともできます。

(3)取締役や親会社の責任
債務超過に陥った会社の取締役が、当該会社が負う債務について責任を負うことは、個人保証やその他の担保を提供している場合は別として、特にありません。もっとも、債務超過に陥った原因が取締役の善管注意義務違反とみなされるような場合には、債権者や株主からの責任追及を受ける場合もありえます。
また、親会社(たとえば、タイ現地法人の株主である親会社)についても、株主有限責任の原則により、債務超過に陥った会社の責任を直接負うことはありません。

次ページ:労務編 Q5

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